rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年6月28日 社説「人民のため滅私服務する革命的党風を徹底して確立しよう」

 

 標記社説は、冒頭、「朝鮮労働党は、人民のために存在し、人民のために献身する真正な母なる党、従僕党である」とした上で、「全党が人民のため滅私服務する気風を確立することは、党と革命の運命と関連する死活的な問題である」と主張する。

 その理由としてあげるのは、まず、「今日、人民のため滅私服務する革命的党風を徹底して確立することは、党に対する人民の絶対的信頼心を固く守るための必須的要求である」からである。すなわち、「人民は、首領の志を高く奉じて自分たちのためにすべてを皆捧げる党組織と党員の献身的な闘争から恩恵ある母なる党の手をより熱く感得することになる」という。換言すると、人民に対し、党組織、党員が滅私服務の姿勢を示さなければ、党に対する人民の信頼を維持することはできないということであろう。

 もう一つの理由は、そうした党風確立が「試練を打開し社会主義建設をより加速するための根本担保である」からである。それは、党組織が「勤労者の生活を本当の父母の気持ちになって心を込めて世話をし、人民が実際に役に立つ良いことを一つでも求めて苦労するなら、大衆の闘争気勢は百倍になるであろう」からである。要するに、「滅私服務」によって人民大衆の感謝の念を喚起し、社会主義建設により積極的に参加させることができる(換言すると、そうしない限り、消極的姿勢を転換できない)ということである。

 そして、そうした「滅私服務」によりなすべき課題としてあげるのは、「現時期、人民が最も関心を持ち、望んでいる切実な問題を解決する」ことであり、具体的には、「住宅問題と食生活問題、消費品問題」などを指摘している。

 ただし、その解決の方法としては、「(各地域が)自分の地方の原料源泉を最大限に動員し、人民が利用する基礎食品と医薬品、必須消費品生産を増やし、教育と保健部門の物質技術的土台を強化すること」を求めている。極論すると、目標だけ掲げて、実施の責任は、地方に丸投げということである。

 同時に、「人民の利益を侵害するあらゆる反社会主義、非社会主義現象との闘争」を強調しており、そこでは、「党と人民大衆を離間させる危険な毒草である権力乱用と官僚主義」及び「国の経済発展と人民生活向上に支障を与える単位特殊主義と本位主義」が闘争対象としてあげられている。

 以上の社説の趣旨は、従前の「人民大衆第一主義」をめぐる主張を繰り返すもので、何ら新味のあるものではないが、相変わらず、こうした主張が繰り返されているということは、その徹底が容易でないことを物語っているとも考えられる。

 そして、現状は、前段部分の主張から示唆されるように、人民大衆の党(あるいは金正恩個人も含めて)に対する信頼低下やそれに伴う経済建設等への消極的姿勢が「死活的な問題」として拡散しつつあるのかもしれない。

 このところ、北朝鮮では、先の党中央委員会第8期第3回全員会議直後に金正恩ら会議参加者が観覧した国務委員会演奏団公演において披露された二つの新曲(「我が母」「その情にしたがわん」)について、「労働新聞」(6月23日付け)が楽譜・歌詞を大きく掲載したのを契機として、普及に躍起となっている。それらは、党及び金正恩への人民の思いを主題としたもので、北朝鮮メディアは、「人民の心情をそのまま反映したもの」と主張しているが、実際は、前述のような信頼低下に歯止めをかけるための対策として創作されたもののように思える。