rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年5月15日 政論「人民の従僕党」

 

 標題の「従僕」は、原文では「심부름군」である。「使者」とか「使い走り(をする人)」とかの訳語もあるようだが、とりあえずこう訳しておく。

 いずれにせよ、「人民大衆第一主義」を基調として、労働党ないし党幹部を「人民の심부름군」と呼んで人民に対する「滅私服務」を訴える主張は、これまでも繰り返されてきたものであるが、同政論は、そのような主張と12日付けの本ブログで紹介した「共産主義」に対する新たな概念規定を結び付けているところに特徴がある。

 それに関連する記述を抽出すると、まず、「今日、我々の闘争と生活には、共産主義理想に対する熱烈な愛とともに共産主義社会へと進もうとのスローガンが全人民的な志向として力強く轟いている」とした上で、そこで目指す「共産主義社会」の意義について、「その社会の人民が享受する福利と享有の高さ、人民が立つ精神道徳的風貌」に求められると主張する。

 そして、それに関して、「敬愛する総秘書同志は、共産主義社会は、すべての人民が息災で平安に和睦して生きていく社会、すべての人々が互いに助け導き、喜びも悲しみも共に分かち合う共産主義美徳と美風が確立されている社会であるということについて明らかにして下さった」とする。ここまでは、12日に紹介した評論の主張の繰り返しともいえる。

 同政論の特徴は、後段部分において、朝鮮労働党が「人民の従僕党」であることを根拠として、「(共産党宣言発表以来)いかなる党も共産主義の勝利を確信性をもって担保できなかった」が、「朝鮮労働党だけが・・共産主義の明るい未来を確信性をもって展望している」と主張している点である。

 そこでは、「人々の道徳的水準と美しさがどれだけ高い境地に達しているかというような徴表が我々が望む理想社会の主たる内容」として、「共産主義社会」について一層精神主義的な側面を強調した上で、「真正な意味での共産主義社会は、人民のため服務する母なる党、人民の従僕党だけが自己の真の理想として掲げることができ、それを最も正確に実現することができる」と主張している。

 「政論」は、概して、その時々に指導部が力点を置いているテーマに関し、論理的というよりは扇動的なトーンでの訴えを行うものとされるが、とりわけ本政論の筆者「동태관」(董泰官・音訳)は、重要とされるテーマを担当しているとの印象がある。

 同政論の掲載は、以上のような「共産主義社会」実現構想(そして、それと表裏一体的に主張される金正恩「首領」化の動きなど)が、党の主流として顕在化しつつあることを示唆しているといえよう。