rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月2日 金正恩が又も被災地復旧現場を視察(10月3日加筆訂正版)

 

 金正恩が江原道金化郡の「被害復旧現場を現地指導」したことが報じられた。訪問日時への言及はない。

 同行者として名前が報じられたのは、朴正天(軍総参謀長)、李日愌(党副委員長・宣伝扇動部長)、金勇帥(党財政経理部長)、趙勇元(党組織指導部第一副部長)、金与正、朴太成(?)、玄松月(党宣伝扇動部副部長)である。また、現地で、同郡党委員長と「人民武力省副相をはじめとする東部地区被害復旧建設に動員された指揮官達」が出迎えたとされる。

 同行者の顔ぶれでまず特筆すべきは、金与正が7月末以来2か月ぶりに姿を現したことである。同女の動向については、「労働新聞」紙面の写真では小さくしか映っていないので、いずれ公開されるであろう動画ニュースを確認の上、詳細に検討したいが、いずれにせよ健在が確認されたことになる。

 

 (10月3日加筆:今回の現地指導を伝える朝鮮中央放送のニュース番組を見たが、静止画像をつなげただけで、動画はなく、金与正が写っている部分はほとんどなかった。そこからうかがえるのは、従前と同様、金正恩を取り囲んで、その「お言葉」をメモする他の幹部らとは異なり、金正恩とはやや距離を置いて付き従うという独特のスタイルである。こうして「健在」が確認されたとは言え、2か月の間出現しなかった(本来、出席すべき会議を欠席した)という事実は残るわけで、その理由は、引き続き検討すべきであろう。このような遠方まで出かけてきたところからすると、先般指摘した「妊娠」説は可能性がかなり低くなったといわざるをえない。あやふやな記憶だが、かつて、北朝鮮の幹部は、定期的に一定期間の再教育を受けることが義務付けられているという話を思い出した。それが本当であれば、あるいは、8,9月の2か月がそのような時期であったのかもしれない。)

 

 このほか、金勇帥が政治局候補委員である趙勇元の前に名前が報じられていることも注目される。9月15日に報道された金正恩黄海北道金川郡江北里視察の際の同行者は、崔竜海、朴奉柱、金才竜、朴正天、李日愌、趙勇元、金勇帥、朴太成、玄松月であり、このときと比べて二人の順番が逆転していることを勘案すると、金勇帥が9月29日開催の政治局会議で政治局メンバーに選出された可能性も考えられる。

 現地での金正恩の動向で特徴的なのは、前回の江北里視察の時と同様、復旧活動に従事する「軍人建設者達」の貢献を高く評価称賛していることである。同郡は、8月中旬の大雨(900mm以上とのこと)の被災地で、千世帯余りの住宅が被害を受けたが、既にその88%相当を新築したということで、このような成果に対し、「無から有を創造し、禍を福に転じる人民軍隊の高尚な精神道徳的風貌がこの地のすべての奇跡を創造する根本秘訣」などと持ち上げている。その上で、金正恩は、「残念」なこととして住宅が一律的に建設されていることを指摘し、「独創性が付与され、周辺環境との芸術的調和性、多様性が適切に結合していたらもっと良かったのに」と贅沢とも言える注文までしている。

 この報道でもう一つ注目されるのは、金正恩が「金化郡に往復される路程で被害を受けた諸地域の甫田に立ち寄り農事状況も了解」し、その結果、「洪水被害を受けた当時には予見できなかった良い作況が広がっている、甫田ごとに被害を克服した痕跡が歴々としている」との評価を下したとされていることである。更に、そうした観察を踏まえての「(今年は)最高収穫年度に劣らない穀物生産を期待できるようになった」「今年は本当に類例がない大変な年であるが、闘争する甲斐も特別に大きい偉大な勝利の年となるであろう」「この世に超えられない難関はないということを再度痛感している」などの発言も伝えている。

 一部の地域だけを見て、ここまで言い切って大丈夫なのか心配になるほどだが、他の地域についても報告を受けた上での「発言」であろう。金正恩のそのような楽観的な予測が報じられている以上、仮に、今後、国際社会の一部で予測しているような「食糧危機」状況などが発生するようなことになれば、彼の権威は大失墜を免れないことになる。みすみすそのような危険を冒すとも考えられない。それなりの目算があっての報道なのではないだろうか。