rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月1日 社説「非常防疫事業をより強度を高めて展開しよう」

 

 標記社説は、「党中央委員会第7期第18回政治局会議精神を高く奉じ党創建75周年を真正な人民の名節として意義深く迎えよう」との共通題目の下、各部門での具体的な防疫活動への取組みを紹介する記事とともに掲載されたものである。 

 社説は、まず防疫活動強化の今日的意義について、「党創建75周年を勝利者の大祝典として輝かせ、今後党第8回大会を成果的に迎え、大会において提示される輝かしい設計図にしたがって前進の歩幅をより大きく踏み出すことのできる重要な担保になる」と強調した上で、その実現のために次のような課題をかかげている。

 第一は、「非常防疫機関の勤務員たちが防疫事業を攻勢的に攻撃的に展開」することである。具体的には、積極的な消毒措置などがあげられている。第二は、「衛生宣伝事業の形式と方法を絶え間なく改善」することによって、防疫に必要な規程などの周知徹底を図ることである。第三は、「すべての人民が今日の非常防疫戦において前哨兵であるとの高い自覚を抱いて防疫規程を徹底して厳守」することである。第四は、「各級党組織が責任と本分を全うしていく」ことである。

 同社説をはじめこれら一連の記事は、いうまでもなく、先月29日開催の政治局会議における防疫活動に関する討議を受けたものといえるが、上述の課題は、従前の繰り返しといえ、特段の新奇な方針はうかがえない。このことからも、同政治局会議における防疫関連の討議は、個別の問題点の指摘や慢性化の戒めなどを通じて、強力な防疫態勢の「堅持」を訴える以上のものではなかったことが改めてうかがえる。

 なお、韓国においては、同会議開催について、防疫活動への強い取り組み姿勢を改めてアピールすることによって、先般の漂流韓国人射殺事件がそれへの取組みを重視する余り起きた事件であることを示唆し、韓国内の反発を緩和することを狙いとしたものとの見方が有力なようであるが、北朝鮮がそのような目的のためにわざわざ政治局会議を開催するなどありえないことと考える。

 そもそも、北朝鮮が統一戦線部の「通知文」をもってしては対応が不十分と認識しているとの見方自体が具体的根拠を欠くものである。本ブログでも紹介したとおり、「通知文」の文面やその後の「領海侵犯」に対する「警告」などからは、金正恩の「謝罪」の意思表明だけでも過分なものであって、むしろそれを希薄化しようとする意向さえ感じられる。韓国内で北朝鮮の対応に不満が強いのは理解できるが、だからと言って、北朝鮮も、当然それを慰撫する必要性を感じていると考えるのは、自己中心的かつ希望的観測に過ぎない。

 また、仮に、北朝鮮が韓国内の反発を憂慮しているのであれば、その「慰撫」のための方法は、「政治局会議での防疫対策強調」のような迂遠な方法によらなくても、韓国への「遺体捜索への協力表明」とか「追加的調査結果の通報」など、簡便(小手先の作文で済ませられ、かつ国内に影響を及ぼさない、との意味)かつ直接的効果の期待できる方法がいくらでもあるであろう。北朝鮮における「政治局会議開催」の意味は、最近随分と頻度が高まっているとはいえ日常茶飯的なものではなく、それなりに政治的重みを持つものであろう(前掲のような一連の記事掲載はまさにその反映である)。韓国では、漠然と青瓦台での大統領補佐官首席秘書官会議などのイメージを投影しているのかもしれないが、それとは同列にできないものであろう。

 繰り返しになるが、今次政治局会議における防疫活動への言及は、前掲社説の主張のような北朝鮮指導部の認識に基づき、その引き続きの徹底のためであり、それ以上でも以下でもないと考えるのが自然であろう。

 なお、付言すると、同会議のニュース動画を見たが、参加者中に金与正の姿のないことが確認できた。このままいくと、10月10日の党創建記念日関連行事にも姿を現さないかもしれない。背景は色々な推測が可能だが、最も蓋然性が高いのは「妊娠」ではないだろうか。