2024年9月26日 北朝鮮の「ゴミ風船」浮揚について(加筆版)
韓国報道では、とりわけ9月に入ってから北朝鮮から韓国に向けた「ゴミ風船」浮揚が繰り返し伝えられており、「今年5月以降、このたび(22日)までに延べ22回のゴミ風船を散布した」とのことである。これら風船が運ぶ「ゴミ」は、紙くずなどで、「これまでのところ安全に危害を及ぼす物資はなかった」が、「(風船に装着された)発熱タイマーが原因と推定される火災が首都圏各地で何回は発生」した由である(22日付け「聯合通信」)。
その間浮揚されたゴミ風船の総量については、「5月28日からこの日(9月23日)まで22回にわたって5500個余りのゴミ風船を飛ばした」と報じられている(「中央日報」23日付け記事)。下線部9月28日加筆
こうした記事だけを読むと、いかにも北朝鮮が一方的に挑発行為を繰り返しているような印象を受ける。一部には、北朝鮮のミサイル試射とそうした風船を結び付けての解説記事も見られた。
しかし、本ブログでは、そうした見方には疑問を感じ、最近ではゴミ風船に関する動向は「スルー」してきたところ、そうした疑問を実証的に裏付ける記事が本日の「ハンギョレ新聞」(デジタル・日本語版)に掲載された。以下は、「対北朝鮮ビラと汚物風船の悪循環、実状は『互いに挑発』」と題する同記事からの引用である。
「ハンギョレが24日、韓国軍合同参謀本部(合参)の集計した「汚物風船散布」資料(5月28日~9月23日)と警察庁の「対北朝鮮ビラ散布発見現況」資料(5月3日~9月19日)を比較してみた結果、北朝鮮側の「風船」散布に先立ち、ほとんど例外なく脱北民団体などの「ビラ」散布があったことが確認された。ビラは5月3日に初めて散布された後、19日まで51回、風船は5月28日に始まって23日まで22回にわたり29日間飛ばされてきた。しかも5月から7月まで一桁にとどまっていたビラ散布は、8月に12回、9月(19日まで)に13回と明らかな増加傾向にあり、加速度がついている。5~8月に2~9日にとどまった風船飛ばしは9月に入って12日間に跳ね上がった。」(下線引用者)
要するに、9月に入って北朝鮮からのゴミ風船が増加したのは、韓国からの宣伝ビラ散布活動に刺激され、それに対抗するためであったということになる。
思うに、北朝鮮のこうしたゴミ風船浮揚を韓国からの宣伝ビラ送付に対する対抗措置として見た場合、回数(量)ばかりでなく、形態(質)においても、相応性という意味で非常にコントロールされた形で実行されていると言えるのではないだろうか。
総じて言えば、北朝鮮は、米韓の軍事的活動に対しては軍事的活動で、それとは異なる次元の「宣伝ビラ」に対してはゴミ風船でと、それぞれ切り分けた形で相応の対抗措置を講じていると見ることができよう。
余談であるが、ハンギョレ平和研究所長の鄭旭シクが書いた「金正恩の『決断』を読み解く」という本は、そうした北朝鮮の相応性を的確に指摘した名著である。金正恩がトランプとの交渉に失敗して以来は、対米交渉の望みを捨て、核武装一本鎗路線に転じたという結論には賛同できないが、北朝鮮に対するバランスのとれた見方や韓国の革新勢力(文政権)に対する厳しい批判など大いに参考になる点が少なくない。御一読をお勧めしたい(宣伝費を貰った訳ではありませんが)。