rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月11日 金与正「談話」関連動向

 

 標記については、昨日まで続いていた国内各層の「反響」紹介記事や「投稿記事」などはなくなり、「論説」と「情勢論解説」だけになった。

 このうち、「最高尊厳は我が人民の生命であり、精神的柱である」と題する「論説」は、冒頭で「朝鮮労働党中央委員会第一副部長の談話に接し、今全国のすべての人民が沸き上がる憤怒と敵愾心で胸をたぎらせている」とした上で、「首領擁衛は我が人民の思想精神的特質の根本核である」などとして、「最高尊厳」に対する冒とくへの強い反発、対抗措置の必然性を主張する。

 また、韓国政府に対しては、「今、敵どもが表面上はあたかも驚いたかのように装い好からぬことが起きたかの如く鉄面皮にとぼけているが、実際には一日一瞬たりとも我が共和国を崩壊させようとの凶悪な心を捨てずにいる。天文学的な資金を投じて思想文化的浸透策動と心理謀略戦を粘り強く繰り広げることは、敵どもの醜悪な本性が絶対に変わらないということを実証している」との認識を示している。

 「悪の巣窟を一掃してしまう強い憤怒の波濤」と題する「情勢論解説」も、ビラ散布を行った脱北者グループのみならず韓国政府に対しても厳しい論難を繰り返し、「我々は、最高尊厳と社会主義制度を敢えてどうかしようと悪行を働く者どもは、それが誰であれ、いかなる仮面をかぶろうとも、どこに隠れていようと、一人も漏れなくすべて摘発し無慈悲な懲罰を受けさせるであろう」などと攻撃姿勢を露わにしている。

 これらの論調は、いずれも、「最高尊厳」に対する人民の忠誠心にせよ「敵」への非難・攻撃にせよ、修辞としては最大限に強い表現を用いているが、今後の具体的な行動を示唆するものではなく、また逆に韓国側に何らかの行動を要求するものでもない。端的に言えば、言うべきことは言いつくしてしまって、後は抽象的な言辞を繰り返しているだけのようにもみえる。

 ただ、そのような中で注目されることが2点ある。一つは「論説」、冒頭の「朝鮮労働党中央委員会第一副部長の談話」への言及である。これは、国内における一連の動向の原点に同「談話」が位置付けられていること、換言すれば、今次の出来事を通じて金与正の存在が全国民に強く印象付けられたことを改めて示すものといえる。しかし、そこに彼女の名前が記されていないこともまた事実であり、現時点における「金与正格上げ運動」の限界なり段階なりを示すものでもあると考えられる。

 二点目は、「情勢論解説」における対韓非難で用いられた「天文学的な資金を投じて・・」との表現である。「天文学的な資金」との表現からは、ここで非難の対象となっている「思想文化的浸透策動」の意味が、いわゆる宣伝活動に限定されるのではなく、経済支援的なものも含んでいることがうかがえるのでないだろうか。要するに指摘したいのは、韓国からの経済的支援の呼びかけが、北朝鮮からすると「経済を餌にした浸透策動」と認識されている可能性である。

 このような見方が正しいとするなら、今、韓国の一部の北朝鮮専門家が提案している、最近の北朝鮮の強硬姿勢への打開策としての大規模な経済支援の実施というアイディアは、まったくのナンセンスということになろう。