rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

6月4日 「南朝鮮当局の黙認下で『脱北者』ゴミどもが反共和国敵対行為敢行」 

 

 標記記事は、5月31日、韓国で脱北者団体が「前沿一帯」(軍事分界線付近)から北朝鮮側に「反共和国ビラ」を送付したことに関連して、金与正党中央委第一副部長が「事態の厳重性を警告」する談話を発表したことを伝えるもので、以下、「自ら禍を求めるな」と題する談話全文を掲載している。

 談話の内容は、同ビラ配布を厳しく非難するだけでなく、「それを見えないふりをしたり煽ったりしている奴がもっと憎い」として、「南朝鮮当局」がそのような活動を拱手傍観していることを批判、「阻止する法を作(る)」など「応分の措置」を取ることを求め、「(それがなされず)このまま行けば、その対価を南朝鮮当局が手酷く支払うしかない」と警告し、その例として、開城工業地区の完全撤去、南北共同連絡事務所の閉鎖、南北軍事合意の破棄などをあげている。

 このような金与正談話が掲載されたことの意味を二つの側面から指摘したい。

 第一は、南北関係における意味合いである。同談話は、時まさに文政権が総選挙圧勝を背景に膠着している南北関係の打開に向け強い意欲を示し、北朝鮮に対する様々な働きかけを始めたところで出されたものであり、そのような文政権の姿勢に対する回答といえよう。

 それをどう解するかであるが、表現を見れば手厳しい部分もあるが、基本的には、文政権の積極的アプローチに対する全面拒否ではなく、本当にやる気があるならまず「誠意」を示せというのが趣旨であり、文政権の出方によっては、それなりに対応の可能性もあることを示唆したものと考える。「開城工業地区の完全撤去」などへの言及は、表現からして、現実味のない修辞としか考えられない。

 おそらく、文政権でも同談話をそのように解釈し、「応分の措置」の検討を始めているのではないだろうか。というのは、最近、韓国から送付頂いた前大統領秘書室長のインタビュー記事を読んだのだが、前回の金与正の対韓談話(北朝鮮の短距離ミサイル発射を批判した韓国大統領府の言動を非難したもの)についても、「おっしゃるとおり」とは言わないまでも、相当同調的な感想を述べていているからである。

 第二は、北朝鮮の国内政治における意味合い、すなわち、金与正の談話を「労働新聞」紙面に掲載したことの効果である。このような形での彼女名義の「談話」発出は、去る3月にも2回あったが、その際は、朝鮮中央通信が配信しただけであったと記憶している。これまでも指摘してきた彼女の存在感拡大の傾向が国内において更に一段階進んだといえるのではないだろうか。

 ここで、金与正の「談話」が対韓、対米関係に限定されていることの意味を考えると、それら分野で何らかの成果が期待できると認識しているからではないだろうか。将来、対韓ないし対米関係で具体的成果を上げ、彼女の実績とすることを目しているのではないか。仮に、それら分野について悲観的な展望を抱いているのであれば、敢えてそこに彼女を関与させる必要はないと考えられるからである。