rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年1月28日 ミサイルの連続試射及び金正恩の現地指導等を一挙に報道

 

 本日の「労働新聞」は、盛りだくさんの内容である。

 まず、国防科学院によるミサイル試射の連続的実施に関する記事から紹介したい。同記事は、「党中央委軍需工業部幹部と国防科学院指導幹部が現地において重要武器試験を指導した」とした上で、①「1月25日、長距離巡航ミサイル体系更新のための試験発射」を、②「1月27日、地対地戦術誘導弾常用戦闘部(弾頭の意味であろう)威力確証のための試験発射」を、それぞれ2発ずつ実施したことを報じている。

 そして、試験結果に関しては、①では「設定された飛行軌道を9,137秒飛行し、1,800㎞界線の目標に命中した」と、また、②では、「目標島を精密打撃し、常用戦闘部の爆発威力が設計上要求を充足したことを確証した」としている。

 更に、今後の開発方針として「(国防科学院)傘下のミサイル戦闘部研究所が今後も引き続き様々な戦闘的機能と使命を遂行する威力ある戦闘部を開発する」ことを明らかにしている。

 そして、これら試射結果が「党中央委員会に報告され、高い評価を受けた」としている。

 以上のミサイル発射のうち、①については、発射の翌日に北朝鮮からの報道がなかったため、背景を揣摩臆測していたが、結局、こうした形で報道されたことで、昨年9月13日に発射実験が行われた(その際は、飛行時間7,580秒、飛距離1,500㎞と報道)巡航ミサイルの改良型であったことになる。前回と比較すると、飛行時間・距離共に2割増しとなり、また、弾頭部分の威力も確認されたことになる。ちなみに、今回の記事には、前回試射の際にはなかった着弾時の写真が添付されており、「目標に命中」を印象付けている。

 また、②については、韓国軍から、昨日午前8時ころ、咸興付近から日本海に向け短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体2発が発射、射距離約190㎞、高度約20㎞と発表されていたものである。

 次に、金正恩の視察に関しては、二つの記事が掲載されている(いずれも視察日時には言及なし)。

 そのうち一つは、「重要武器体系を生産している軍需工場を現地指導」したとするもので、同行者は、趙勇元組織秘書と「党中央委員会副部長である金正植同志、金予正同志、国防科学院部門(ママ)」の指導幹部(複数)」とされる。同記事は、同工場の所在地、名称、具体的な生産品目などには言及せず、金正恩が軍事力整備の重要性を強調し、同工場の幹部、労働者らを鼓舞激励したことを縷々伝えている。その中には、「命よりも貴重な我が共和国の自衛権を各方面から侵害しようとする米帝国主義者とその走狗の挑戦」に対抗すべく金正恩が「心魂と熱情をすべて捧げている」としているとの記述もある。

 もう一つの記事は、「野菜温室農場建設予定地を了解」したとするもので、同行者としては、趙勇元のほか、朴正天秘書の名前が挙げられている。同農場の建設は、咸鏡南道咸州郡蓮布里(音訳)に以前から計画されていたもので、金正恩が「2019年4月、自ら現地を踏査」して「咸鏡南道人民の食生活向上に貢献するようにとの構想の下、」準備を進めてきたもので、先般の党中央委第8期第4回全員会議において、本年の「主要国家建設政策課題中の最優先的な課題」に設定され、「今年の党創建記念日(10月10日)までに完工することを決定」したとされ、「100町歩の面積に該当する850余個の温室」と「農場住宅地区」などが予定されている模様である。

 同記事は、金正恩が同農場建設に関する様々な具体的指示を与えるとともに、同農場が「翌年から運用できるように」するため、技術者・従業員の選抜教育や野菜の種子・農機械の準備なども事前に並行して行うよう指示したことなどを伝えている。

 また、金正恩は、同農場の建設を以前に咸鏡北道の仲坪野菜温室農場を建設した経験を生かすため、再度、軍部隊に担当させることを決心したとされ、同視察に際しても、「建設に動員される軍部隊の指揮官たち」が出迎えたとされる。

 なお、この場所は、前掲②のミサイル発射がなされた「咸興付近」と距離的にかなり近接していることから、同発射に際して、報道はされていないものの、実際は金正恩が立ち会ったあるいは発射前に視察するなどした可能性もあるのではないだろうか。

 いずれにせよ、本日報道された2回のミサイル発射を含め今年に入って6回にわたる各種ミサイルの発射、先の中央委員会政治局会議における国防建設加速化、大陸間弾道弾発射「猶予」中断の検討指示、そして、前掲の金正恩の2か所の視察は、一連のものと考えるべきであろう。

 その意義を改めて考察すると、新たな並進路線(別の言い方をすると新たな先軍政治)の鮮明化・加速化と要約することができるのではないだろうか。ここで、新たな並進路線というのは、昨年の第8回党大会で決定された内容が、公式的にはそれを標榜していないものの、実質的には、経済建設と国防力強化を共に目指すものであったとの見方に基づくものであり、先般来の「全面的発展」方針の一つの柱ともなっていたものである。

 そうした路線は、昨年中、折に触れて顕在化し、例えば、「国防発展展示会」における金正恩の演説などでは、そうした傾向がかなり明確に示されていた。ただし、昨年は、バイデン政権の対北朝鮮政策を見極めるため、本格的発動をやや抑制していたが、同政権発足1年を経て、その「対話」呼びかけが口先だけのものとの結論を固め、いよいよ自力での国防態勢強化を「加速」するに至ったと見ることできるのではないだろうか。

 また、それが単なる軍備強化路線ではなく、あくまでも「並進路線」であることは、今次金正恩の視察先が軍需工場と野菜温室農場建設予定地であったこと、そして後者の建設を担うのが軍部隊であるところに象徴的に示されているといえよう。そこでは、人民生活と国防力強化が矛盾・対立するものではなく、車の両輪のように相互に促進し合うものとして(実際にそうであるかは別問題として、理念的には)位置づけられていると考えられる。

 したがって、一連のミサイル発射などの狙いについても、国防力強化それ自体を目指す技術向上の過程を進むものであると同時に、国内に向けた鼓舞・激励及び金正恩の業績誇示、そして、米国等に対する外交的交渉基盤強化などが同時に追求されていると考えるべきで、その中でとりわけどれが重要かというのは余り意味のある設問ではないように思われる。