rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年4月3日 朴正天、金予正が韓国国防省発言非難の談話発表

 

 本日の「労働新聞」は、標記の2つの談話(いずれも4月2日付け)を掲載した。

 これら談話が非難の対象とした国防相発言というのは、次のようなものである。

「韓国の徐旭国防相は1日、『北朝鮮の(韓国に対する)ミサイル発射の兆候が明確な場合には、発射地点や指揮・支援施設を精密に打撃できる能力と態勢を備えている』と先制攻撃に言及した。ミサイル部隊の組織改編式での発言として国防省が発表した。 北朝鮮への刺激を避けてきた文在寅政権で国防相が先制攻撃に触れるのは異例。・・徐氏は『軍は多様なミサイルを保有し、北朝鮮のいかなる標的も正確かつ迅速に打撃できる』とも強調した。」(共同通信4月1日)

 まず、朴正天(「党中央委員会秘書」の肩書使用)の談話について見ると、冒頭に「南朝鮮軍部の反共和国対決狂気について我が人民と軍隊が必ず知るべきであるので、私はこの談話を公開する」とした上で、徐国防相の「(北朝鮮の)発射原点と指揮、支援施設を先制的に精密打撃する能力と体制にある」「今後も敵(北朝鮮)を圧倒しうる長距離、超精密、高威力、多様な弾道ミサイルを持続開発していくであろう」などの発言を比較的正確に伝えた後、これを「軍事的対決意志を隠すことなく示した」ものであり、「核保有国に対する『先制打撃』を云々するのは狂った奴か政治馬鹿か」などと非難している。

 そして、それに応じ、「私も我が軍隊を代表して長くなく一つだけ明確に警告する」として、「我が国家を相手に先制打撃のような危険な軍事的行動を敢行するなら、我が軍隊は仮借なく軍事的力量をソウルの主要標的と南朝鮮軍を壊滅させることに総集中するであろう」と威嚇し、更に、「南朝鮮軍部は、対決的妄動で情勢をより緊張させてはならない。常に恐れを抱いて不安に震えながら自国民を安心させようと虚勢を張って対決的妄発を吐くことについてはよく分かっているが、これ以上の客気はふりまかないのが良いだろう」と揶揄するかの発言で談話を結んでいる。

 次に、「金予正朝鮮労働党中央委員会副部長談話」を見ると、分量的には朴正天談話よりは相当短く、「我が国家に対する『先制打撃』妄言」の内容には具体的に言及しないまま、「核保有国を相手に『先制打撃」を不用意に云々』したことについて、「狂った奴」「ごみ」「対決狂」などと非難している。

 その上で、「私も委任により厳重に警告する」として、「我々は、南朝鮮に関する多くのことを再考するであろう。惨変を避けようとするなら自粛しなければならない。私はこの者の客気を二度と見ないようになることを望む」としている。

 両談話とも、「狂った奴」など野卑な表現を用いてはいるが、非難の対象を文政権ではなく「南朝鮮軍部」としており、実質的な警告の部分でも、「先制打撃するなら」との前提を付したり(朴正天談話)、対韓関係の「再考」示唆して「自粛」を求めたりする(金予正談話)など、比較的抑制的な印象が強い。

 残り任期が1月余りの文政権を相手に拳を振りあげても空しいだけという気持ちが働いているのかもしれない。

 むしろ注目されるのは(改めての確認だが)、両談話とも、韓国との関係で、「我が国家」という表現を用いていることである。事実上の2国家存立という既成事実の定着を示したものといえるのではないだろうか。

 余談だが、徐国防相は、この間までは、北朝鮮に宥和的な姿勢が際立っていたが、このところ、強硬姿勢を顕著化させているように見える。大統領選挙結果を受けて、これまで抑圧していた「本音」が出たのか、あるいは次政権への「忖度」かは不明だが、いずれにせよ見苦しい限りである。