rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年4月26日 朝鮮人民革命軍創建90周年慶祝閲兵式を挙行

 

 本日の「労働新聞」は、標記閲兵式が4月25日、盛大に挙行されたことを伝える記事をその写真151枚とともに掲載するとともに、そこでの金正恩の演説の全文を掲載した。

 また、それとは別に、同日、同慶祝行事に参加した各級部隊指揮官を党中央本部庁舎に招いて祝賀宴を開催したことも併せて報じられている。ちなみに、これら行事には、李雪柱夫人が同行している。

 これら一連の行事に関し、なによりも注目された点は、金正恩が演説を通じて、従前以上に核戦力の増強意欲を強く誇示したことである(詳細後述)。

 次に、参加者の面では、先般来姿を現さなかった朴正天党秘書が政治局常務委員に加え、軍事委員会委副委員長・元帥の肩書、軍服姿で登場し、閲兵部隊の検閲(上記党中央本部での慶祝宴会での演説も)を行ったのみならず、昨年失脚したと見られていた李炳哲も党常務委員・党秘書の肩書、軍服姿で登場したことである。ちなみに、両人の序列は朴正天が先になっている。結果として、党常務委員会のメンバーは6人となり、そのうち軍人が2人ということになる。また、党秘書としての両人のすみわけとしては、前述の肩書・動向などを勘案すると、朴正天が軍の全般的運用などを、李炳哲が軍需部門をそれぞれ担当すると推測することができる。こうした見方は、4月2日付けの朴正天名義の「談話」で「軍を代表して」としていたこととも符合する。しかし、確定的なことを言うには、もう少し注視が必要であろう。

 一方、最近の金日成誕生110周年などの行事で政治局メンバーと肩を並べて氏名が報じられることがあった金予正は、今次閲兵式の参加者としては氏名を挙げられておらず、政治局には入っていないことが確認できたといえる。それら行事での序列は、やはり「親族枠」での特別扱いであったということになろう。

 閲兵式の参加部隊及び登場兵器に関しては、ビデオなどを未見であるので詳しい分析はできないが、「労働新聞」の報道で脚光を当てられているのは、明らかに「3月24日」に発射したとする「火星砲17」ミサイルである。それに関し、国外では、このとき実際に発射されたのは「火星15」であったとの見方が流布されているだけに敢えてそれを強調したようにも思える。

 徒歩行進部隊は、ほとんど従前と同様の編成のように思えるが、「国家保衛省縦隊」というのは、初登場ではないだろうか、添付写真中に唯一、軍服ではなく背広を着用した一団が写っているが、これが同縦隊なのであろうか。

 金正恩演説については、前半部分で90周年を迎えた朝鮮人民革命軍創建の意義を回顧・称賛し、後段で当面の軍事建設方針を述べる構成となっている。

 このうち、前段で注目されるのは、同軍創建の意義として、「我が民族の尊厳と自主権を脅かすものとは最後まで武力で決算しようとの固い反帝革命思想・・を内外に宣言したこと」を挙げ、「歴史は、・・この決断と意志が千百回正しいものであったことを明白に実証」したとしている部分で、ここには今日的含意が込められているといえよう。

 後段においては、「力と力がし烈に激突する現世界において国家の尊厳と国権、そして信じられる真正な平和は、いかなる敵も圧勝する強力な自衛力によって担保されます」との現状認識を示した上で、「我が革命武力建設の総路線」として「人民軍隊を百戦百勝する軍隊にすること」を訴え、そのための方策として、「政治思想強軍化」と「軍事技術強軍化」の柱を掲げている。そして、後者に関しては、「人民軍隊を高度の軍事技術力を備えた強軍として強化発展させる」ことを掲げ、「国防科学部門と軍需工業部門において、新世代先端武装装備を引き続き開発、実戦配備」するよう求めている。

 とりわけ核兵器に関しては、「国力の象徴であり我が軍事力の基本を成す核武力を質量的に強化し、任意の戦争状況で多様な作戦の目的と任務にしたがって多様な手段で核戦闘能力を発揮できるようにしなければなりません」として、「我が国家が保有した核武力を最大の急速な速度で一層強化発展させるための措置を引き続きとっていく」との意向を示している。

 更に、核戦力の使用概念として、「核武力の基本使命は、戦争を抑制することにあるが」としつつ、「いかなる勢力であれ、我が国家の根本利益を侵奪しようとするなら、我が核武力は、・・第二の使命を決断して決行しないわけにはいかない」として、核の先制的使用を強く示唆している。こうした表現は、4月4日付けの金予正談話で示された「先制打撃に対する核使用」という考え方と基本的には符合するものであるが、核使用の前提条件として、金予正談話が「先制打撃」という具体的な状況を示したのに対し、「国家の根本利益」という抽象的・曖昧な概念を用いた点では、核使用のハードルを更に下げたものとも解釈できる。

 ただ、そうした細かな表現(ないしその変化)が実態的な核ドクトリンをどの程度正確に反映したものであるかは、必ずしも判然としないところがある。むしろ、韓国での保守政権誕生を目前にしての対外牽制的なレトリックの側面が強いのではないだろうか。

 更に言えば、前述のような一連の記念行事(及びその報道ぶり)からは、なによりも、様々な困難が続く中での軍隊及び国民の士気高揚、人心収攬という狙いが強く感じられる。