rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月10日 党中央軍事委第8期第7回拡大会議開催を報道(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が8月9日、金正恩の「指導」の下開催されたことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

  • 開催目的:「朝鮮半島地域に造成された厳重な政治軍事情勢に対処して軍隊の戦争準備をより徹底して備えるための重大問題を討議するため」
  • 参加者:「中央軍事委員会委員が参加」し、「軍種司令官と前線軍団及び重要任務担当部隊指揮官、党中央委員会該当部署幹部(いずれも複数)が傍聴」
  • 主要議題:①「朝鮮半島地域の平和と安定を破壊する情勢悪化の主犯どもの軍事的蠢動を分析し、徹底して牽制するための攻勢的な軍事的対応案(複数)を決定」、②「有事時、敵の攻撃を圧倒的な戦略的抑制力で一挙に無力化し、同時多発的な軍事的攻勢を取るための確固たる戦争準備態勢を備える問題」
  • 決定事項①=前線作戦集団の編成、作戦計画の改定:「有事時に軍事戦略戦術的及び軍事力の確固たる優勢により敵を圧倒的に制圧、殲滅するための強化された前線作戦集団編制案と作戦任務を審議・・より具体化された作戦計画を樹立」、「前線部隊(複数)の拡大変化した作戦領域と作戦計画に伴う重要軍事行動指針を示達」、「新たな戦略的任務に伴う実戦訓練を積極実施し・・作戦準備態勢を万端に備えるための軍事実務的問題と関連決定を全員一致で可決」、金正恩が「討議決定された重大な軍事的対策に関する命令書に親筆署名」
  • 決定事項②:=抑止手段の増強・実戦化推進:金正恩が「戦争準備を攻勢的により促進することについての綱領的結論」、「戦争抑制力使命遂行の威力ある打撃手段をより多く拡大保有」するとともに「(それを)部隊に機動的に実戦配備」、「配備された新型武装装備を・・効率的に運用するための実戦訓練を積極実施し、常に動員された戦闘準備態勢を維持」するよう指示
  • 決定事項③=軍需工業部門における増産:「軍需工業部門のすべての工場、企業所において・・各種武装装備の大量生産闘争を本格的に推進・・生産能力(の)造成と生産計画目標を提示」
  • 人事:総参謀長交代(朴守日大将→李永吉次帥)、「主要職制指揮メンバー(複数)」を解任・任命。このほか記事中には言及ないが、添付写真では朴正天(背広着用)が着席(前段では末席付近、中段以降は李永吉の次の席)
  • その他討議事項:「共和国創建75周年(9月9日)慶祝民間武力閲兵式」の準備徹底など

 今次会議の最大の「目玉」は、決定事項①の「強化された前線作戦集団」が編制されたことであろう。報道では、それがどのようなものなのかはまったく示唆されていないが、憶測を逞しくすると、例えば、既存の前線軍団のいくつかと戦術核兵器運用部隊などを束ねた「集団軍」のような組織を新設した可能性もあろう。推測に推測を重ねると、朴守日は、その指揮官に任じられたことも考えられる。

 次の注目点として、軍事力整備に関し、決定事項②で示された「戦争抑制力使命遂行の威力ある打撃手段」すなわち核・ミサイル戦力の増強のみならず、決定事項③で示されたように軍需工業全般における増産(すなわち通常兵器全般の整備促進)を具体的な目標を設定する形で決定したことである。こうした姿勢については、去る6日に報じられた金正恩の軍需工場視察に関して指摘したところであるが(同日付け本ブログ参照)、今次会議においては、それがより明示的に示されたといえる。

 人事問題に関しては、重要な点は朴正天の「復活」であり、前述のようなその出現状況(背広姿、着席位置)などから推測すると、おそらく彼は軍事担当の秘書の地位に就くのであろう。昨年12月に朴正天の後を継いで秘書に就任した李永吉が参謀総長に就いたのは、いわば、その玉突き人事の結果といえよう。

 最後に報じられていない問題として、主要議題①(敵牽制のための当面の軍事的対応策)に該当する決定事項が何ら示されていないことを指摘しておきたい。前述のような軍の組織改編であるとか軍事力整備をもって、それに代えたのであろうとも言えないことはないかもしれないが、それでは、やや迂遠に過ぎるように思われる。今月下旬に予定されている米韓合同軍事演習に向け、何らか具体的な方策を策定した上で、サプライズとすべく秘匿しているのではないだろうか。

 いずれにせよ、今次会議は、7・27閲兵式及び軍需工場視察に続き、党中央委第8期第8回全員会議で存在感を低下させた金正恩が改めてその指導力を発揮(挽回?)させる場になった。ただ、繰り返しの指摘になるが、そうした軍事分野偏重の指導姿勢が本当に人々の支持獲得につながるのか、疑問と言わざるを得ない。

以下加筆

記事に添付の写真を子細に観察すると、会議前段(金正恩後方の置時計は3時半ころを指している)では、金正恩に向かって左側テーブルの最奥側(金正恩の隣)に李永吉が、その右側(金正恩から2番目)には趙勇元秘書が着席している。そして、これと同じ配列とみられる写真では、朴正天は左側テーブルの末席近くに着席している。しかし、後段(同5時半ころ)では、李永吉はそのままで、その右側に朴正天が着席している。

 推測するに、会議は前後2段に分けて行われ、前段では、趙勇元ら党関係者も参席の下、機構改編や朴正天の処遇を含む人事問題などを決定し、後段では、席を改め韓国の地図を掲示した上で、軍事部門関係者のみで、より詳細な軍事的事項を検討・決定したのではないだろうか。