rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月8日 金徳訓総理の農業部門に対する「現地了解」を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金徳訓総理が「黄海南北道と平安南道の諸郡において農事作況」を現地了解したこと(日付不詳)を伝える記事を掲載した。

 同総理の「現地了解」報道は、珍しいものではないが(直近では8月3日にも掲載)、北朝鮮の最重要穀倉地帯に対するものでもあり、最近の農業部門に対する当局の指導重点がどこにあるかを示す材料として紹介したい。

 まず、営農活動については、「地帯的特性と収穫物形成期の生育条件に即して農作物施肥管理をより科学技術的に行い今年の穀物生産目標を必ずや占領」することを訴えている。

 また、直面する課題として、「予見される台風と洪水、暴雨による被害を最小化するため灌漑及び排水体系に対する整備」を強調した。

 また、組織面では、「各級農業指導機関において、地域の農業生産単位に対する統一的な掌握指導体系をより整然と立て、科学的な農業指導を深化」させることを訴えたという。

 このうち3点目は、要するに、道の農村経理委員会及び郡の農業経営委員会が傘下の農場に対する指導を強化せよということであろう。そして、そのような訴えは、かねて本ブログで指摘・注目してきた北朝鮮の農場改編が、農場をいわば当局傘下の国営企業所のように位置づけ、国家機関の系列に一層強く組み込むことを目指すものであることを示しているといえよう。

 また、本記事でもう一つ注目されるのは、生産物の収買(国家による買い上げ。農場側から言えば、供出)について何らの言及もないことである。この点については、巷間、農場(農民)と当局の間の緊張関係が続いているとの指摘があり、また、かつては、金徳訓総理自身も「現地了解」に際して関連機関・施設を訪れるなどしてきた。今次「現地了解」で、そうした点への言及がないということは、秋の収穫時期まで間があるという要素もあるかもしれないが、少なくとも、それが当面の重要問題とはなっていないことをうかがわせるものであろう。

 全体として、農業部門においては、科学的営農作業の実践・深化、灌漑施設の整備を粘り強く推進するという、かねての方針が維持されていると総括できよう。

 ただし、当面は、10日にも予想される大型台風6号の襲来により、農業部門でどの程度の被害を受けるかが注目される。そこでの被害を比較的軽微なものに限定できれば、これまでの努力が奏功したということになり、士気を大いに高揚させる材料となるのではないだろうか。逆に、その反対の結果が出た場合は、これまでの「成果報道」は何だったのかということになり、また、今年の食糧生産にも悪影響を及ぼすことになり、物心両面で相当深刻な後遺をもたらすことになろう。