rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月6日 金正恩の「重要軍需工場」現地指導を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が8月3日から5日の間、「重要軍需工場」を現地指導したことを報じる記事を掲載した。同記事が伝える金正恩の指導先と各所における主な指導内容は、次のとおりである。

  • 超大型口径放射砲弾生産工場:「昨年11月9日、(同)工場を現地指導」した際の指示に基づき、「超精密大口径砲弾の系列生産能力造成のため生産工程全般に大々的な新たな設備と測定装置を導入して精密加工能力を向上させ、自動化を実現し、労働環境条件を飛躍的に一新させた」ことに「大きな満足を表示」。「新たな弾種を系列生産するための能力造成事業など国防経済事業の重要方向を提示」
    • 「昨年11月9日の(同)工場指導」は、当時は未報道
  • 弱電器具工場建設状況:「人民軍隊現代化のための重要な役割を担う新たな弱電器具工場建設のための事業」を「現地で指導」し、「我が国軍需工業の先鋒に立つ核心工場らしく現代的に整えるための方向と方途を提示」
  • 狙撃武器(小銃)生産実態:「変化する戦争様相に即して人民軍隊前線部隊と有事に敵後方で武装闘争を行う部隊が携帯する狙撃武器を現代化すること」の重要性を強調、「軽量化と集中性(正確性?)保障」を「基本核心指標」として「新たな形式、新たな口径の狙撃武器を製作することについての綱領的な課題を提示」、「工場の展望的な生産目標とそのための生産工程現代化方向を明示」
  • 戦略巡航ミサイル無人機発動機生産工場:「発動機の性能と信頼性を不断に向上させ、生産能力を急激に拡大していくための方途的問題を具体的に教示」、「生産工程をより高い水準で現代化、科学化、精密化し、工場の労働生産条件と文明的な生活環境を引き続き一新させていく」ことを指示
  • 重要戦略武器台車(TEL)生産実態:「戦略ミサイル発射台車(の)・・計画遂行状況と展望的な生産実態を具体的に了解」、「生産を力強く推進していることについて高く評価」、「国防工業発展の基本鍵は、軍需労働階級(労働者)の精神力を最大限発揚させるところにある」と強調、「愛国心と闘争精神を発揮するよう積極的に推進し、生活条件保障にも深い関心を払わねばならない」と訴え

 金正恩の以上のような軍需工場視察に関し注目されるのは、まず、その視察対象が、超大型放射砲弾、戦略ミサイル用TELなど核・ミサイル開発関連分野にとどまらず、狙撃武器(小銃)や弱電器具(通信その他エレクトロニクス関連器具と思われる)など、軍の基礎的装備に関する分野に及んでいることである。こうした装備・備品の更新を図るとするなら、その経済的負担は膨大であり、いわゆる「核一点豪華主義」による軍事支出効率化を標榜した「並進路線」とは異なる、本格的軍拡路線の邁進を意味するものといえよう。

 次に、上掲要約では最後の「重要戦略武器台車」の項目にのみ記したが、各所で同様に労働者の勤労意欲向上や労働環境・生活条件保障などに言及していることである。それが単に軍需工業部門に対する重視の姿勢を反映したものであるのか、あるいは、同部門の労働者の勤労意欲に何らかの問題が生じていることの反映であるのか、必ずしも明らかでないが、いずれにせよ、最近の経済全般における思想性重視の傾向(8月2日付け本ブログ参照)を改めて感じさせる動きと言えるのではないだろうか。

 最後の注目点は、金正恩の視察の同行者である。記事は、「趙勇元同志、金在龍同志、金予正同志、朴正天同志が同行した」(役職は記載せず)と報じており、昨年12月末開催の党中央委第6回全員会議で党秘書・軍事委員会副委委員などから解任され、「失脚」とみられていた朴正天の「復活」を明らかにした、添付の写真にも、同人が金正恩の間近で視察している状況が写し出されている。ただし、序列が副部長である金予正の下位に置かれていることからして、常務委員はもとより政治局委員等への回復には至っていないと思われる。

 また、金在龍も、6月の中央委第8回全員会議以降、出現が途絶えていたが、この記事で健在(又は復活)が確認されたことになる。ちなみに、金予正は、写真にはほとんど現れず(確認できるのは1枚のみ)、同行したのは超大型口径放射砲弾生産工場1か所のみであった可能性もあろう。

 一方、金正恩を出迎えたのは、「軍需工業部副部長である金正植同志、洪英七同志、金英学同志」及び各工場の「責任幹部」である。軍需工業部の中でも、更に部門ごとに担当の副部長が置かれ、この3人が、各視察先のいずれかを担当しているのではないだろうか。

 余談だが、先般来、金正恩の視察先は、軍事関係に偏重していて、大規模建設の着工式・竣工式などを除くと経済・民生部門への視察はほとんど報じられなくなっている。こうした傾向には、人々はどう感じているのだろうか。口先での「人民生活重視」との乖離に不満を抱くことはないのであろうか。