rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年3月28日 各種核兵器関連動向を一挙報道

 

 本日の「労働新聞」は、昨日観測された弾道ミサイルの発射に加え金正恩の核弾頭に関する視察・指導、核無人水中攻撃艇試験の状況などを一挙に報道したほか、米韓の軍事活動に反発する論評員論評まで掲載し、北朝鮮が米韓への対抗姿勢を一段と強めていることをうかがわせた。それぞれの記事骨子は、次のとおりである。

ア 金正恩による「核武器兵器化事業」に対する指導(3月27日)

  • 参加者:洪勝武(音訳)第1副部長をはじめとする党中央委軍需工業部幹部、核武器研究所とミサイル総局の幹部
  • 核武器研究所による報告事項:「最近年間の事業状況と生産実態」
  • 金正恩による了解事項:「新たな戦術核武器(複数)の技術的諸元及び構造作用特性、異なる武器体系との互換性など」、「国家核武器総合管理体系『核引き金』の情報化技術状態」
  • 検討事項:「準備された核反撃作戦計画と命令書(複数)」
  • 金正恩発言等:「我々の核武力が相手にする敵は、どこかの国や特定の集団ではなく、戦争と核惨禍それ自体である」「いつでも、どこにでも核武器を使用できるよう完璧に準備されてこそ、永遠に核武器を使用しないようになる」、「武器級核物質生産を展望性をもって拡大し、威力ある核兵器を引き続き生産することに拍車をかけていかねばならない」

イ 模擬核弾頭搭載弾道ミサイルの「師範教育射撃訓練」(3月27日)

  • 実施主体:「ミサイル総局が指導」、「中部戦線の重要火力打撃任務を担当するミサイル部隊」において、「軍部隊管下各区分隊の指揮官と戦闘員が参観」、「軍部隊直属教育中隊が動員」されて実施
  • 訓練内容:①核攻撃命令認証手続きと発射承認体系の稼働正常性を検閲」、②「核攻撃命令接受手続き」及び③「指摘された標的に核襲撃を加えるための標準戦闘行動工程と火力服務動作」を「師範教育」。ミサイルに「核戦闘部を模擬した試験用戦闘部」を装着
  • 発射・飛行状況:「地上対地上戦術弾道ミサイル2発」を「平壌市力浦区域から咸鏡北道金策市沖目標島に向け、「核空中爆発打撃方式」で発射、「標的上空500mで戦闘部を空中爆発させた」

ウ 核無人水中攻撃艇の試験(3月25日~27日)

  • 実施主体:国防科学院
  • 試験概況:3月25日午後、元山湾から発進、朝鮮東海に設定された600㎞界線の距離を模擬したジグザグ及び楕円形針路を41時間27分間潜航し、3月27日午前、予定目標水域である咸鏡北道花台郡沖に到達し、試験用戦闘部が正確に水中起爆
  • 試験結果:「すべての戦術技術的諸元と潜航技術的指標が正確に評価され、武器体系の信頼性と安全性が検証」

エ 論評員論評「米国とその走狗の軍事演習騒動の厳重性を評す」を掲載

  • 米韓の軍事行動への認識:先般来の「自由の盾」「双竜」演習などに関し規模・動員兵器などを具体的に紹介しつつ、北朝鮮の「占領」などを目的とした攻撃的なものであると繰り返し強調。「これ以上拱手傍観できない先制攻撃性の軍事行動である」「共和国に対する露骨的な宣戦布告と異ならない」、「単純な軍事訓練ではなく、本質と性格、規模と内容、形式において徹頭徹尾、我が共和国を先制打撃するための核戦争実働訓練」であると評価
  • 対応方針:「これを抑制できる物理的力を培うことは我々の自衛権に関する問題として誰もとやかくいうことができない」、「国家の自主権と安全が脅威を受けている厳重な事態に対処して、我々の核武力が自らの重大な使命に臨むのは余りにも当然である」

  以上の動向のうち、最も印象的なのは、やはり金正恩の「核武力兵器化」つまり各種核弾頭の開発生産に関する「指導」で、記事中には具体的に明示されていないが、添付の写真を通じて、各種兵器に使用可能な弾頭を開発・生産しつつあることを強く示唆(誇示というべきか)している。それと「核引き金」と命名された「国家核武器総合管理体系」の存在を示すことによって、戦術核兵器の運用態勢がハード、ソフトの両面で完成しつつあることを内外に強く印象つけようとしているのであろう。ただ、本当にそれらが完成しているのか、見せかけだけのものかは何とも評価しがたい。そういう意味でも、それを実証する上で必須となる核実験実施いかんがますます焦点にならざるをえないであろう。

 また、模擬核弾頭搭載の弾道ミサイル発射訓練も3月14日の「西部戦線」での実施に継いで2回目となり、地域ごとに実戦化を着実に進めていることを示している。

 核無人水中攻撃艇についても、3月21日から23日に実施の初試験に比して、潜航時間は大幅に短縮された一方、新たに「ジグザグ形」の進路を導入しており、技術的安定性を誇示したといえよう。

 更に、論評員論評の掲載も、3月17日に継ぐものであり、非常に異例の報道ぶりと言える。そこで注目されるのは、米韓の軍事活動が北朝鮮に対する「攻撃」的なものであることを殊更に強調していることである。これを、金正恩が前述の「核武器兵器化指導」に際して、北朝鮮の核開発は、特定の国家・集団を対象としたものではなく、あくまでも戦争抑止のためであることを強調していることと併せて読むと、両者の対立が実は、一般に言われるような対称的なものではなく、北朝鮮の側に正義があることを主張するものとなる。内外の世論を意識したものと考えられる。