rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年3月20日 「核反撃仮想総合戦術訓練」の実施を報道

 

 本日の「労働新聞」は、3月18日と19日の2日間にわたり、金正恩の「指導」の下、標記訓練を実施したことを報じる記事を掲載した。その骨子は、次のとおりである(なお、添付写真には、金正恩に寄り添う娘の姿もあったが、記事中に言及はなかった)。

  • 訓練目的:①「戦争抑制力と各反撃能力を実質的に強化し、該当部隊を戦術核攻撃任務遂行手続きと工程に熟練させる」、②「攻撃性の濃い軍事行動を乱発している敵どもにより強硬な実戦対応の意志と警告を送る」
  • 訓練概要:①「核打撃指揮体系管理演習」、②「核反撃態勢へと移行する実技訓練」、③「模擬核戦闘部(核弾頭)を搭載した戦術弾道ミサイル発射訓練」
  • 実施状況

   〇 3月18日(①、②):「戦術核武力に対する指揮及び管理統制運用体系の信頼性を多角的に再検閲し、各種の仮想的な緊急状況下での核攻撃命令下達及び受領手続きの正確性と核兵器取扱秩序、様々な核攻撃方案に伴う稼働手続きを厳格な安全性見地から検閲しつつ、核攻撃に迅速に移行するための行動秩序と戦闘操法に熟達するための訓練」を「反復的に実施」

   〇 3月19日(③):③―1「最終核攻撃命令認証手続きと発射承認体系など技術的及び制度的装置の稼働正常性と安全性を検閲、それに伴う行動操法を反復的に熟練」、③―2「(ミサイルに)核戦闘部を模擬した試験用戦闘部」を装着、③―3「戦術弾道ミサイル」を「平安北道鉄山郡から発射」、800㎞飛行し、「朝鮮東海上の目標上空800mにおいて正確に空中爆発」、③―4「核戦闘部に組み入れられた核爆発操縦装置と起爆装置の動作信頼性が再度検証」。参観者:国防相と「戦術核運用部隊を総指揮する連合部隊長と管下東・西部戦線各ミサイル軍部隊長達、区分隊指揮官達」、「党中央委員会該当幹部達とミサイル総局の指揮官達、核武器研究所の該当メンバー達」

  〇 今次訓練の意義:「我々の核戦闘武力が戦争抑制と戦争主導権獲得の重大な使命を任意の時刻、不意の状況においても迅速正確に遂行することができるよう準備する上で重要な契機となった」

  〇 核抑止力発揮の条件:「核を保有している国家であるという事実だけをもっては戦争を実際的に抑制することができない・・実際に敵に攻撃を加え得る手段として、いつでも敵がおそれるように迅速正確に稼働できる核攻撃態勢を完備してこそ戦争抑制の重大な戦略的使命をまっとうすることができる」

  〇 現状認識:「今日の形勢は、我々の核戦争抑制力を幾何級数的に増大させることを切迫して要求している」

  • 核武力運用方針:「我々の核武力は、高度の臨戦態勢において敵どもの蠢動と挑発を鉄桶のように抑制し統制管理するであろうし、意図せざる状況が到来するなら、躊躇なく重大な使命を決行するであろう」

 上記のような報道からは、19日に観測されたミサイル発射(注参照)が、単なるミサイル発射ではなく、そこに模擬核弾頭を搭載し、それを着弾寸前に空中爆発させたのみならず、その発射に先立ち、国家指導部による核攻撃命令の発令から核弾頭を搭載したミサイルの発射に至る諸段階の手続き、実際の動作なども確認・訓練した、これまでに例のない実戦的、総合的な核戦力使用訓練の一環であったことがうかがわれる。

 注:韓国軍合同参謀本部は19日、北朝鮮が同日午前11時5分ごろ、北西部の平安北道・東倉里付近から朝鮮半島東の東海に向けて短距離弾道ミサイル(SRBM)1発を発射したと発表した。ミサイルは約800キロ飛行して東海に落下した(機種については、KN23と推定の由)。

 また、北朝鮮国内では、こうした軍事活動と並行する形で、17日から開始された青年層による軍への入隊志願キャンペーンが継続されており、本日の「労働新聞」は、その志願者数が19日までに「140万余名に達している」と報じた。もちろん、実際に戦争をしているロシアとは異なり、この場合の「志願」は、志願する者も周囲も、実際に戦場に赴くことを想定した上での行動ではなく、まったくのセレモニー的活動に過ぎないのであろうが、北朝鮮が、このたびは、米韓への対抗に本腰を入れて取り組んでいることは、間違いないといえよう。