rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

 

2023年12月19日 金正恩「参観」下の「火星砲18」発射訓練の実施を報道(詳細版

 

 本日の「労働新聞」は、標記に関し、「朝鮮民主主義人民共和国戦略武力の超強硬報復意志と絶対的力の明確な誇示 ICBM『火星砲-18』型の発射訓練を断行」と題する記事を写真25枚と共に第1面以下3ページを費やして掲載した。同記事の骨子は、次のとおりである。

  • 発射の背景事情:「(12月15日、米韓は)第2回「核協議グループ」会議という核戦争謀議をこらして、またもや我々の『政権終焉』を言い散らし、共和国に対する『核報復打撃』を実戦化した大規模の連合訓練を強行する企図を公然とあらわにした」ことに加え、「12月17日、原潜ミズーリをまたもや大げさに宣伝しながら朝鮮半島に展開」した。「(こうした)厳しい現実は、朝鮮民主主義人民共和国をしてやむを得ず変化した行動すなわち、より攻勢的な対応へと移転することを差し迫って求めている」
  • 訓練実施の目的発射状況:意図的かつ計画的な敵の対決的軍事威嚇行為を強力な行動的警告によって無力化させるべきだという党中央軍事委員会の決定に従って、・・大陸間弾道ミサイルICBM)『火星砲-18』型の発射訓練が断行された」、「(同訓練は)核戦争抑止力の臨戦態勢を検閲し、機動性と戦闘性、信頼性を確かめるのに目的を置いて行われた」
  • 発射状況:「金正恩総書記が中央指揮監視所に上がって戦略兵器の発射を承認すると、ミサイル総局長の張昌河大将が第2赤旗中隊に発射命令を下達した」、「ミサイルは、最大頂点高度6518.2キロまで上昇し、距離1002.3キロを4415秒間飛行して朝鮮東海の公海上の目標水域に正確に着弾した」
  • 訓練結果:「共和国戦略武力の迅速反応態勢とわが軍事力の最も強力な戦略的核心打撃手段に対する信頼性が再度検証」された。
  • 金正恩発言等:「発射訓練の結果に大満足し・・の揺るぎない超強硬対応意志と絶対的力を再び明確に誇示したと評価」、「敵が引き続き間違った選択を続ける時には明確に一層進化され、一段と威嚇的な方式を選んでなお一層攻勢的な行動で強力に対応すべきである」

 18日付けの本ブログで記した通り、北朝鮮は、17日午後10時38分ころ平壌付近から短距離弾道ミサイル1発を発射したのに続き、18日午前8時24分ころ同じく平壌付近から大陸間弾道ミサイルを発射している。同記事は、後者を指すものでることは言うまでもないが、前者に関しては、何ら言及していない。また、添付写真の中には、金正恩の「娘」及び夫人の姿があるが、記事中には言及されていない。

 7月に実施された「火星砲18」の前回発射に比しての今次発射の特徴としては、前回が「試験発射」であったのに対し、「訓練発射」と称することにより、同兵器が実戦配備済みであり、「迅速反応態勢」にあることを誇示したことをあげることができる。同ミサイルが既に軍需工業部門の手を離れていることは、発射に際しての命令系統が前回は金正恩→金正植党軍需工業部長→張昌河ミサイル総局長であったのに対し、今回は、金正恩→張昌河総局長となっていることからもうかがわれるところである。

 また、今次発射の政治的狙いが米韓の「核協議グループ」合意やその直後の原潜来航などに対する「超強硬報復意志と絶対的な力の誇示」であることを強調していることも特徴的といえる。こうした対抗行動の実施は、先の国防省代弁人談話でも予告されたところであるが、ここでも、それが繰り返されている。米韓の圧迫に対しては絶対に「座視」せず断固対抗していくとの固い決意が改めてうかがわれる。

 ただし、今後の対応については、「敵が引き続き間違った選択を続ける時」に限って「一層攻勢的な行動」を行うとしていることから、今次は一応ここで矛を収め、あとは米韓の行動を注視する方針を示していると解釈できる。そうであるとすれば、対抗は「相応」の水準に止めるという意味で「抑制的」と言えるのではないだろうか。

 なお、別件であるが、本日の「労働新聞」には、訪朝中の朴明浩副相が18日、王威外相と「会った」ことを報じる記事も掲載されている。同記事は、そこで「相互の戦略戦術的協働を強化していこうとの立場が表明」され、「談話は同志的で親善的な雰囲気の中で行われた」と報じている。

 こうした報道ぶりは、15日に行われた同副相と中国外交部副部長との会談(17日付け本ブログ参照)に関する記事では、「意見一致」や「同志的」などの表現が用いられなかったのとは対照的である。中国側の対応が副部長と部長でそこまで異なったとは考えにくく、北朝鮮側が、弾道ミサイル発射と同日に王維外相との会見が行われたのを奇貨として、敢えて両国の協調姿勢を印象つけるような表現を用いたのではないかと考えるのは、うがちすぎであろうか。