rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年11月21日 金正恩の「指導」下、火星17試射を実施

 

 先週一杯、パソコンの不調が続いたりして遅れてしまったが、標記に関し、整理しておきたい。

 19日付け「労働新聞」は、「核には核で、正面対決には正面対決で 朝鮮労働党の絶対不変の対敵意志厳粛に宣言 敬愛する金正恩同志が朝鮮民主主義人民共和国戦略武力の新型大陸間弾道ミサイル試験発射を現地において指導された」との見出しを付して、18日に実施された「火星砲―17」の試射を報じた。同記事の骨子は、次のとおりである。

  • 試射の背景:「米国と敵対勢力ども無分別な軍事的対決妄動が限界を超え・・偽善的で強盗的な詭弁が国連舞台においてまで合理化されている看過できない形勢において決行された」
  • 参加者:金正恩「現地で指導」「愛するお子様と女史とともに自らお出まし」。随行:趙勇元(組織秘書)、李日換(宣伝担当秘書)、全現哲(党経済部長)、李忠吉(党科学教育部長)、金正植(党軍需工業部長?)。迎接:「張昌河上将と国防科学研究部門指導幹部」。写真では、金予正の姿も。
  • 試射の目的:「武器体系の信頼性と運用信頼性を検閲」
  • 飛翔状況:最大頂点高度6,040.9㎞、飛行距離999.2㎞、飛行時間4,135秒
  • 試射結果:「世界最強の戦略武器としての威力ある戦闘的性能がはっきりと検証された」
  • 金正恩の言動:「米国と敵対勢力どもの軍事的威嚇が露骨化している危険千万な情勢は、我々をして圧倒的な核抑制力強化の実質的な加速化をより緊切に要求している」「敵対勢力に・・自らの安保環境を改善するためには賢明な選択を再考しなければならなくなるように(北朝鮮が)より明白な行動を示す必要性を披歴」「米帝国主義者が・・軍事的虚勢を張れば張るほど、我々の軍事的対応はより攻勢的に変わることになると宣言」「敵が核打撃手段をしきりに引き入れ引き続き威嚇を加えてくるなら、我が党と共和国政府は、断固として核には核で、正面対決には正面対決で応えるであろうと厳粛に闡明」「核戦略武器を絶え間なく拡大強化していくことについての我が党の国防建設戦略について改めて強調」

 火星17の発射は、3月16日(発射直後に爆発)及び今月3日(日本海上で墜落?)に次ぐもの(注)。北朝鮮としては、今次試射を通じて、火星17の開発は基本的に完成したということにし、実際には核弾頭再突入時の信頼性などの問題は残っているのかもしれないが、米本土に対する核攻撃力を保有したと主張することになるのであろう。

 (注) 公式的には、3月24日、火星17の試射に成功した旨を大々的に報道(25日付け「労働新聞」など)したが、米韓側では、このとき発射されたのは火星15であったと分析

 ただ、上述の報道からは、そうした核戦力の増強について、以前のように積極的に喧伝するというよりは、むしろ、米国側の圧迫・威嚇に対するやむをえない対応との正当化を図り、望むべくは米国側から力比べではない「賢明な選択」を導き出したいとの期待もうかがわれる(だからと言って、自分から降りるつもりはないようだが)。

 金正恩が夫人のみならず娘まで帯同して、その姿が報じられたことには驚いたが、その狙いは、こうした核戦力整備が戦争準備のためではなく、後代に平和を保障するためとの姿勢を印象けるためであったのではないだろうか。そのことは、今次試射を称賛する20日付け「労働新聞」掲載の政論「朝鮮労働党の厳粛な宣言」の中の次のような一節からもうかがえる。

「『我々の戦略武器の試験発射ニュースに接するときには本当に胸がなります。私たちの子供たちが永遠に戦争を知らず明るく青い空の下で生きられるようになったのだから、これがどれほど感激的なことではないですか。戦勝といえばこれよりもっと大きい戦勝がどこにありますか』

 テレビで放映された新型大陸間弾道ミサイル『火星砲―17』型の試験発射ニュースを愛する子供たちとともに視聴していたある女性が吐いた激情にあふれた声である」

とりわけ、下線部の表現については、金正恩も「愛するお子様とともに」現地に赴いたと報じられている。偶然の一致ではないと思われる。

 最後に細かいことだが、随行者のうちに軍需部門の最高責任者と目されている李炳哲(中央軍事委員会第一副委員長)の名前がない。なぜだろうか。