rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月14日 またも金正恩の重要軍需工場現地指導を報道

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が8月11,12の両日、「重要軍需工場を現地指導され、軍需生産実態を了解された」ことを報じる記事を掲載した。同「現地指導」の同行者及び各訪問先での言動等は、次のとおりである(なお、本日は、金正恩の台風被災地視察に関する記事も同時に掲載されているが、それについては、別項で紹介したい)。

  • 同行者:趙春竜党軍需工業部長、金正植同副部長
  • 戦術ミサイル生産工場:「生産工程の自動化と自立化を実現し・・現行軍需生産目標を計画どおりに違えることなく執行していることについて満足を表示」、「新たに開発された戦術ミサイルの生産工程を迅速に確立するための対策を進めており、工場改修現代化を不断に実現していることについても高く評価」、「拡大強化された前線部隊とミサイル部隊の編制需要と作戦計画需要に即して大々的に生産装備させることについての重大な目標を提示」、「労働階級(労働者)の愛国的熱意を爆発させ、戦争準備のための生産的昂揚を起こす」ことを訴え
  • 戦術ミサイル発射台生産工場:「部隊装備需要と利用方法が確定したことに即して、質的水準が優勢な我々式発射台車生産戦闘に総突入することにより、党第8回大会が提示した計画された生産目標を無条件に遂行しなければならない」、「台車生産において多用途化を実現する(ため)・・台車設計を絶え間なく更新し生産工程現代化に力を集中し、軍隊の戦争準備完成に実際に寄与できる現代的で性能の高い発射台車をより多く生産」するよう指示
  • 戦闘装甲車生産工場:「党第8回大会が提示した多用途戦闘装甲車開発実態を了解」、「第2次装甲武力革命を起こすことについての党中央の遠大な構想と戦略的企図に即して装甲車生産能力を拡大し現代化する事業で収めた成果を高く評価」、「新たに開発された多用途戦闘装甲車を直接運転・・開発において到達すべき戦術技術的諸元と工場に適された戦闘的課題を提示」
  • 大口径操縦放射砲弾生産工場:「国防科学研究部門において・・122mmと240mm放射砲弾の操縦化を実現したことは・・放射砲利用分野における一大革命」としつつ「これからは砲弾生産に総決起」するよう指示、「(同工場の)科学者、技術者、従業員の精神力を総発動して・・生産工程現代化において大きな前進を成し遂げ、生産正常化を力強く推し進めていることについても評価」、「前線部隊の砲兵武力強化において操縦放射砲弾を幾何級数的に増やすことが極めて切実な問題(であり)・・増加された軍の作戦需要に即して砲弾生産において成長を収めより多くの砲弾を前線部隊に縦長配備しなければならない」
  • 工場関係者の反応:「祖国統一、祖国死守のための我が軍隊の戦争準備完成を武装装備生産によってしっかりと担保すべき重い使命感を再度深く自覚」

 金正恩の軍需工場視察は、8月3日から5日(6日報道)に続くものであるが、今次視察の特徴は、去る9日に開催の党中央軍事委第8期第7回拡大会議において決定された前線部隊改編及びそれに伴う作戦計画の改定を受ける形で、各種兵器の増産を指示したとされることといえよう。同中央軍事委に関する報道(10日付け本ブログ参照)とあわせて、ミサイル増加配備などによる前線部隊の戦力強化を印象つける動きである。

 また、「祖国死守」のみならず「祖国統一」のためとの形容も付しつつ、「戦争準備完成」の表現が繰り返されていることにも注目せざるをえない。

 ただし、厳密に記事(下線部)を読むと、そうした「増産」によって目指すのは、党第8回大会で決定された計画の達成(及び「生産の正常化」つまり遅滞の解消)であり、勇ましい掛け声とは裏腹に、実際は、かねての計画を上方修正したわけではないとも解釈できる。

 換言すると、最近、米韓の圧迫に対抗して軍事力整備を加速化するとの姿勢を示している(先般来の軍需工場視察もまさにその一環)が、それは、実は演出に過ぎないということになる。そうした解釈が正しいか否かは、なお慎重に検討すべきであろうが、そうした演出によって米韓を牽制する(あるいは武威を張る)というのは、コストもかからず賢明な戦術のようにも思える。