rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月14日 金正恩の台風被災地視察を報道(8月15日記)

 

 8月14日付け「労働新聞」は、金正恩が(10日に襲来した)台風6号の被災地である江原道安辺郡五渓里(音訳)一帯を視察し、「被害復旧事業を指導」したことを報じる記事を掲載した(視察日時は未記載)。その骨子は、次のとおりである。

  • 出迎え者(肩書はすべて「同志」のみ):金徳訓(総理)、趙勇元(組織秘書)、朴正天、李哲万(政治局候補委員、党農業部長), 朱哲圭(内閣副総理・農業委員会委員長)
  • 被害の概要:「河川の堤防が崩壊し、200余町歩の農耕地が浸水」
  • 金正恩による被害発生時の対応:「台風被害発生初期、即時に党と政府の幹部が現場に出向き、被害状況を具体的に了解掌握しつつ、復旧事業を進めるようにされ、江原道駐屯(人民軍)部隊(複数)に必要な力量を緊急移動展開させ台風被害を速やかに回復するための戦闘を展開するよう措置」
  • 視察時の発言①(軍部隊への評価):「農耕地浸水被害復旧のための事業に迅速に進出し戦闘的威力を発揮している人民軍部隊(複数)を高く評価」
  • 視察時の発言②(農作物保護対策):「(浸水地域で)最大限農作物を保護し、穀物収穫高に影響が及ばないよう至急に栄養管理対策を立てること」などを指示
  • 視察時の発言③(地元幹部批判):「(同地で)浸水被害を生じさせるに至ったことは、全面的にこの地域の農業指導機関と党組織の甚だしく慢性化し無責任な事業態度のため」、「この地の幹部(複数)は、(かねて自然災害防止に尽力してきた)国家的措置に鈍感であり、何らの対策も立てなかった結果、他地域に比して多くの被害を受ける後遺を招来した」、「このたび(の被害)を契機にもう一度、自然災害防止能力を備えるための国家的な事業体系に警鐘を鳴らさなければならない」

 8月12日付け本ブログで、台風6号の被害は軽微であった模様と記したが、実際には、こうした被害が起きていた。ただ、ここが全国で最も酷い被災地であったとすれば、過去の甚大な被害に比して、被害を限定できたと言うこともできよう(前述ブログで記したとおり、その理由は、台風の勢力がさほどではなかったためかもしれないが)。

いずれにせよ、今次視察報道は、そうした被害に対して、金正恩の指導下、党・政府・軍が一体となって迅速な被害の復旧に努めていることを演出するとともに、自然災害防止(国土強靭化ともいえる)への尽力を改めて督励するためのものといえよう。そして、今次視察は、金正恩の人民愛を示す多くの治績の一つに加えられるのであろう。

 更に言えば、同記事が金正恩の軍需工場視察記事と同時に掲載されたことは、同人が軍事にばかり注力しているわけではなく、人民生活、経済復興にもそれに劣らず腐心していることをアピールしたいためとも考えられる。

 なお、現地で出迎えた幹部の中に「復活」間もない朴正天が含まれていたことも注目される。前述のとおり具体的な肩書は記されていないが、序列的に党政治局候補委員・部長である李哲万の前に記されたことからして、それと同等以上、すなわち政治局委員又は候補委員ないし党秘書又は部長に就任していることが改めてうかがえる。そこにいた他のメンバーとの役割分担からすると、出動した軍部隊の指導にあたっていたのではないかと考えられる。