rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

9月6日 金正恩が台風被災の咸鏡南道訪問、現地で政務局会議開催。「首都党員師団」の編成・派遣を決定

 

 本日の「労働新聞」で報じられた標記に関する一連の動向を時系列に整理すると、次のとおりとなる。

3日:台風9号により咸鏡南道、同北道で被害発生(各道で、それぞれ住宅1,000余戸損壊、少なくない公共建物、農耕地に浸水など)。金正恩は、「即時」に党副委員長(複数)を被害状況把握のため現地に派遣。

5日:金正恩咸鏡南道被害地域に到着。同地で政務局拡大会議を「招集、指導」(写真によると専用列車会議室内の模様)。同会議には、副委員長のほか、党中央委主要部署責任幹部、軍総参謀長が参加。

 同会議では、「(咸鏡南北道に)急派する建設力量編制問題と設計、資材輸送保障問題をはじめとした具体的な対策的問題を研究確定、決定」。金正恩が①復旧支援のため「首都党員師団」の編成。派遣を表明、②主要復旧建設用資材の需要を計算、保障対策策定、③人民軍隊動員に関する党中央軍事委員会命令を下達などの対応。咸鏡南道党委員長金成日(音訳)を解任、後任に党中央組織指導部副部長(氏名未報道)を任命。

 金正恩は、政務局会議後、被害地域を「現地で了解」。①海岸沿線地域の安全対策の至急取組み、②海岸防潮堤と港湾防波堤の標準工法の研究・設計、③農作物の収穫減少を最小化ための農業技術的対策など様々な指示。

 金正恩は、首都党員あての書簡(5日付け)を執筆(党本部執務室らしき部屋での執筆光景写真掲載、同日中に平壌に帰着の模様)、全文を「労働新聞」紙面に公開。同書簡は、咸鏡南北道において、今次台風による「予想外の暴雨と強風で被害が多く発生」したとした上で、「試練と難関を共に打ち勝ち打開していく中で団結が志と情でより岩のように固まるであろう」ことを強調、両道にそれぞれ1万2,000人からなる「首都党員師団」を派遣することを決心したとして、参加を「歎願」することを訴えている。

 同書簡では、あわせて、同師団参加者に対し、出発に先立ち「決起集会」を開催して金日成金正日への「忠誠の誓い」をすること、被災地において「謙遜」な態度を保ちつつ、「地方人民達の強靭な生活気風と気質も学び」、「先進技術機能を誠実に教える」ことなどを求める一方、同師団の指揮官らに対しては、参加者の健康に十分配慮するよう求めるなどの内容も盛り込まれている。

 以上のような報道振りないし金正恩の動向が、これまでの洪水・台風被害への対応と同様、同人の指導力及び人民に対する「恩情」アピールのためのものであることはいうまでもないが、被災地救援のための首都党員師団の編成・派遣というのは、救援力量の確保にとどまらず、被災地住民への「配慮」アピール、参加者への教育効果及び「革命闘争参加履歴」獲得の機会提供など一石二鳥、三鳥の効果のある妙案と思われる。しかも、参加者の健康確保にまで言及するとは、なんという芸の細かさと感動を禁じ得ない。