rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

9月5日 「党の方針執行を怠り台風9号による人命被害を発生させた元山市と江原道幹部の無責任な態度から教訓を得るための会議開催」

 

 標記会議が、3日に開催されたことが報じられた。

 同記事によると、党においては、台風9号の到来に先立ち被害防止に万全の対策を講ずることを指示していたにもかかわらず、「元山市と江原道の幹部は、党の方針を思想的に接受しなかったことから、形式主義、要領主義を発揮して、危険建物を徹底して掌握し住民を漏れなく疎開させるための事業を正しく組織せず、数十名の人名被害を出す重大事故を発生させた」とのことである。

 これを踏まえて開催された同会議は、金才竜党副委員長が「指導」し、党中央委員会の副委員長(複数、氏名紹介はなし)及び組織指導部、宣伝扇動部幹部が参加、元山市と江原道の該当幹部、各道・市・郡幹部がそれぞれの地元から「画像会議」に参加した、とされる。

 会議では、元山市・江原道幹部らの行動について「通報」するとともに、「元山市内の党、行政、安全機関の責任幹部達を党的、行政的、法的に厳しく処罰することが宣布された」とされる。

 同会議の開催は、今次台風により元山市で多大な人命被害が出たことの結果責任を厳しく追及する姿勢を示すことによって、他の地域幹部に対して「一罰百戒」的な「教訓」を与えるとともに、一般住民に対しては、被害の責任が「党」にではなく、その指示をしっかりと履行実践しなかった地元幹部にあることを示して、「党」に対する信頼の低下を防止(ないし極小化)することを目指したものと考えられる。そうした「幹部の怠慢」を「労働新聞」紙上でここまで赤裸々に報道するのは異例かもしれないが、悪い出来事の責任を幹部に転嫁するという基本的な構図(要するに「トカゲのしっぽ切り」)は、既視感のある出来事といえよう。

 むしろ、同記事に関し驚くのは、同会議を金才竜が「指導した」と報じていることである。最高指導者以外の人物の行動に関して「指導」の表現が用いられるのは、李炳哲はじめとする8人の党副委員長の台風被災地視察に関する9月1日の報道で前例のあることであるが、今次会議のような他の副委員長や全国の地方幹部が参加する、いわば全国規模の会議を一副委員長が「指導した」と表現することは、一層重大な変化といえるであろう。

 ただ、それをもって、直ちにいわゆる「委任統治」なり「委任政治」論の根拠といえるかと言えば、それは、また別の問題と考える。金才竜がどのような部門の事業に関し、どのような権限を付与されているか、この会議を「指導した」ことだけをもってしては、見極め難いからである。それは、また、同人がいかなる部の部長に就いているかとも関連して判断されるべきであろう。

 いずれにせよ、同会議に関しほぼ確実に言えるのは、それが金才竜の独断によってではなく、金正恩の承認を受けて開催されただろうということである。そのような推測の根拠は、北朝鮮社会で最も強い規範力を有するとされる「朝鮮労働党の唯一的領導体系確立の10大原則」の第9原則第5項に「個別的幹部が党、政権機関及び勤労団体の組織的な会議を勝手に招集し、あるいは会議において党の意図に合わせずに『結論』」することなどを禁止していることにある。むしろ、金才竜は、金正恩の「命に依り」、同会議を「指導した」と考えるのが自然であろう。

 この点だけにとどまらず、「委任統治」ないし「委任政治」を文字通りに実施しようとするなら、同「10大原則」を改訂することが必要となろう。換言するなら、万一、同「原則」が改訂されたとするなら、それは北朝鮮における政治方式の本当の変化を裏付ける根拠となるであろうし、それなくしての「変化」は、結局のところ表面的なものにとどまると言わざるを得ないのではないだろうか。