rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年11月2日 朴正天党秘書が談話発表、米韓合同空中軍事訓練を非難。その後、ミサイル3発発射

 

 朝鮮中央通信は、昨日深更、11月1日付けの標記談話を掲載した。

 同談話は、現在実施中の米韓連合空中訓練「ビジレント・ストーム」について、「我が共和国を狙った侵略的で挑発的な軍事訓練」であるとし、また、米国が(北朝鮮核兵器を使用した場合の)「共和国の「政権終末」を核戦力の主要目標として政策化した」ことや韓国軍高官の同旨発言などに言及しつつ、同訓練が「このような挑発の延長線である」との認識を示した上で、「これ以上の軍事的客気と挑発を容認することはできない」として、米韓に対し、「『軍事騒動』と挑発的な妄言」の中断を要求している。

 同談話は、更に、米韓が「我々に対する武力使用を企図するなら、朝鮮民主主義人民共和国武力の特殊な手段(複数)は、自らの戦略的使命を遅滞なく実行するであろうし、米国と南朝鮮は、恐るべき事件に直面し、史上最も驚くべき対価を払うことになるであろう」と警告している。

 同談話は、党中央軍事委員会副委員長であり軍事部門の最高位にある朴正天の名義によるものである点で、従前の総参謀部や外務省の代弁人の発表・談話などに比べると、格段に高い重要度を持つものとみるべきだろう。

 ただし、内容に関して言うと、後段の「恐るべき事件・・史上最も驚くべき対価」などの表現は、「我々に対する武力使用」を前提条件としたものであって、合同訓練の実施・継続と直接結びつくものではない。談話の中では、敢えて両者を混ぜて書くことにより、あたかも訓練を中止しないとそういうことが起きると言っているかのような脅威感を演出しているようにも見えるが、そこは厳密に区分してとらえるべきであろう。

 そして、韓国軍発表によると、同談話が発表されて半日もたたない本日8時51分ころから江原道元山付近から短距離弾道ミサイル3発が発射され、このうち1発は、東(日本)海のNLL南方26㎞(束草東方57㎞)の公海上に着弾したという。北朝鮮がこのような形で南に向けてミサイルを発射したのは初めてのこととされる。

 こうしたミサイル発射は、朴正天談話の予告した「恐るべき事件」ではなく、おそらく、10月31日の「外務省代弁人談話」の言う「より強化された次の段階の措置」なのであろう。先般来のエスカレーションは止まらない形勢であり、今後の展開が注目される。

 なお、余談だが、米韓空中訓練の名称となっている「ビジレント・ストーム」(Vigilant Storm)の「vigilant」を辞書で引くと、形容詞として、「絶えず警戒している」「油断のない」などの訳語が載せられている。興味深いのは、その末尾に「e」を加えて「vigilante」とすると、「自警団員」という意味(含意は「犯罪者を違法に罰する」)の名詞になり、「vigilantism」は、「法律を無視し、暴力的な自警団員特有の行為、態度」となっている。朴正天の談話では、「ビジレント・ストーム」の名称が湾岸戦争の時の「デザート・ストーム」を彷彿させると非難しているが、むしろ、こうした言葉の含意を指摘すべきであろう。国際法は無視で、気に食わなければリンチにかけるぞという姿勢を示したものとも解釈可能であろう。アメリカ人は、このことに気づいていないのだろうか。