rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年4月30日 金正恩が「先制攻撃」に言及

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が先の閲兵式に参加した軍部隊指揮官を党中央本部庁舎に招いて面談・激励し、記念写真を撮影したことを伝える記事を当該写真を付して掲載した。

 同記事において、金正恩が「朝鮮人民革命軍創建90周年を盛大な閲兵式で慶祝する上で貢献した彼らを高く評価」した上で述べたとされる内容のうち、注目されるのは、次の部分である(下線部引用者)。

  • 「力と力が激突し、引き続き強くなってこそ自己の尊厳と権益を守ることができる現世界において、誰も押し止めることのできない恐るべき攻撃力、圧倒的な軍事力は、我が国家と人民の安寧と子孫万代の将来を担保する生命線である」
  • 「敵対勢力どもによって持続して加重される核脅迫を含むすべての危険な試みと脅迫的行動を必要であれば先制的に徹底して制圧粉砕するため、我が革命武力の絶対的優勢を確固として維持し、不断に向上させていく党中央の意志を披歴」した

 以上の発言は、自国の「核戦力」には直接言及していないものの、「恐るべき攻撃力、圧倒的な軍事力」との表現はそれを連想させるものといえる。そして、その延長線上で、「脅迫的行動」すなわち具体的な軍事攻撃に至らない行動に対しても、「先制的に徹底して制圧粉砕」するとの意向を示したことは、25日の「閲兵式」での演説における「いかなる勢力であれ、我が国家の根本利益を侵奪しようとするなら、我が核武力は、・・第二の使命を決断して決行しないわけにはいかない」との発言と合わせて勘案すると、核の先制使用の可能性をより明示的に示したものともいえる。また、その使用条件に関する表現も、先の発言の「国家の根本的利益を侵奪」から、今回は、より幅広い「脅迫的行動」として、ハードルを更に下げたともいえる。

 こうした一連の言動の真意は、前回のブログでも記述したとおり定かでなく、修辞を超えるものではないとも考えられるが、いずれにせよ、そうした言動の加速の背景には、「力と力が激突し、引き続き強くなってこそ自己の尊厳と権益を守ることができる現世界」との国際情勢認識が存在すると思われる。これは、言うまでもなくウクライナ情勢を反映したものと考えられ、北朝鮮がロシア擁護の公式的言動とは裏腹に、ロシアのそうした行動によって一種の危機感を募らせていることがうかがえる。もちろん、当面の直接の関心事は、間もなく発足予定の韓国保守政権(及びそれとの対北連携を強めようとしている米日)なのであろうが。

 なお、記事では、参加者としては、朴正天党秘書と李英吉国防相をはじめとした「国防省責任幹部達、朝鮮人民軍軍種司令官、軍団長達」としており、写真には、最前列に金正恩の両脇に朴正天党秘書と李英吉国防相が着席し、2列目に8人、3列目に9人の軍人が起立して写っている。2列目に海軍、空軍の制服を着用した人物がいるほかは、すべて陸軍の制服とみられる。

 注目されるのは、ここに総政治局長はもとより総参謀長の姿も見えないことである。そのことの一つの解釈としては、金正恩の軍部隊に対する指揮権が従前信じられていた総参謀長ではなく、国防相を通じて行使されるということに変更されたみることが可能ではないだろうか。その場合、総参謀長は、あくまでもスタッフとして位置づけられることになる。この写真1枚だけを根拠にそこまで考えるのは飛躍しすぎかもしれないが。