rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年9月8日 金正恩出席下での新型潜水艦の進水式実施等を報道(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が9月6日、新型潜水艦の進水式に出席したこと及び翌7日、同潜水艦に乗艦・視察したことを報じる記事を掲載した。また、それとは別途に、金正恩が同進水式で行った演説全文を掲載した。これら記事の骨子は、次のとおりである。

  • 進水式同行者:李炳哲、朴正天の両元帥、金徳訓内閣総理、金明植海軍大将(海軍司令官)。このほか、添付写真には女性の姿もある。崔善姫外相のように見えるが確認できない
  • 進水式概況:①国歌演奏、②海軍への戦術核攻撃潜水艦移管に関する党中央軍事委員会命令を伝達(李炳哲)、同命令で潜水艦を「金君玉英雄」号と命名金正恩が移管証書を東海艦隊傘下の水中艦戦隊長に授与、④金正恩が進水を祝賀する演説、⑤金正恩と記念写真撮影、⑥李炳哲の命により、同潜水艦が進水
  • 潜水艦視察状況:金正恩が試験航海のため出港準備中の同艦を視察、海軍司令官以下の主要指揮官が出迎え、「(同)艦の武装体系と潜航作戦能力を了解」、乗組員を激励、共に記念写真撮影
  • 進水した潜水艦について:「わが海軍武力の中核的な水中攻撃手段の一つ」「多様な威力の核運搬手段を大量搭載し、任意の水中で敵対国家(複数)を先制及び報復打撃できる威力ある手段」
  • 既存潜水艦の核武装化計画(金正恩演説中に言明):「既存の中型潜水艦もすべて・・戦術核を搭載する攻撃型潜水艦に改造するとの構想は、我が党第8回大会が明らかにした海軍武力強化路線の一環として、『低費用先端化戦略』です」「(『金君玉』号は)既存中型潜水艦を攻撃型に改造する戦術核潜水艦の標準型です」
  • 同型潜水艦開発経緯:「核推進潜水艦とともに既存の中型潜水艦も発展した動力体系を導入し全般的な潜航作戦能力を向上させ、こうして戦闘序列に立たせることについて私がここに来て課題を与えて、今4年が過ぎ、党大会がこの計画を承認してから2年が過ぎました」(2019年7月、金正恩が同造船所での潜水艦製造を視察の報道あり)

 本件を報じた韓国・聯合通信記事によると、同潜水艦には、10個のSLBM垂直発射管が認められ、このうち4個は中距離SLBM北極星3・4・5」を、6個はKN23を改造したミニSLBMを搭載すると分析されているほか、魚雷管から先般開発を明らかにした「核無人水中攻撃艇・ヘイル(津波)」の発射できる可能性もあるとしている。

 金正恩は、前掲のとおり、これを「標準型」として、既に保有する中型潜水艦(聯合通信によると約20隻前後)をすべて「戦術核潜水艦」に改造するとしている。

 そうした点からすると、以上のような金正恩の演説内容は、党大会で公言した核推進型潜水艦の建造が当面見込めない中で、今次進水した「金君玉英雄」号をモデルとした既存潜水艦の改造による「核潜水艦大量建造」というイメージを作り出すことにより、近海における米韓日の合同訓練や米戦略潜水艦の寄港などの動向に対抗しうる海軍力の強化を内外に印象つけることを狙いにしたものとも考えられる。

 なお、聯合通信記事によると、添付写真の朴正天の名札に「党中央委員会軍政指導部長」の職名が認められた(これまで軍政指導部長であった呉日正は、民防衛部長への異動が判明済み)とのことである。ようやく朴正天の職責が判明したことになる。

 また、干拓地の進水に絡んで痛烈に批判された金徳訓総理が同行したことにも驚かされた。次回最人民会議での解任は必至と思っていたが、残留の可能性も出てきたようである。そうすると、先の金正恩の批判は、「愛の鞭」であったということか。

以下加筆

 後になって気が付いたのだが、本日の「労働新聞」(通例6ページ)は、上記2件の記事になんと6ページを費やし、残りの記事2ページとあわせた8ページ建てで発行されている。通例のミサイル試射などでは見られない扱いであり、それだけ、今回の新型潜水艦進水の意義を重要なものとみなし、それを国内に強くアピールしたかったということがうかがわれる。米国が戦略原潜派遣などで「拡大抑止強化」の象徴として利用してきた、その核潜水艦という概念を逆に敵圧迫の手段とした、というところが鍵ではないかと思われる。