rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年9月3日 金正恩の北中機械連合企業所と重要軍需工場への現地指導を報道

 

 本日の「労働新聞」は、標記「現地指導」に関する記事を掲載した(日時は記載せず)。その骨子は、つぎのとおりである。

  • 同行者:趙勇元秘書、金在龍秘書、趙春竜(軍需工業)部長、金予正副部長、崔明哲(軍需工業部?)副部長
  • 北中機械連合企業所での指導・発言内容:「現技術装備実態と技術改造方向について了解」、「(企業所が)年末に向け立てた生産闘争目標を了解・・全的な支持を表明・・大きな満足を表示」、「北中機械連合企業所は、国の船舶工業発展と我が海軍武力を強化する上で誰も代わることが出来ない重任を担っているとされつつ、企業所に船舶工業の新たな時代を切り開いていく革命闘争方針を提示」、「(同)企業所の現代化と国の船舶工業発展方向について今後、党中央委員会全員会議は重要な路線を提示することになる」
  • 「重要軍需生産工場」(単数)での指導・発言内容:「工場の技術現代化進行状況に満足を表示され、追加的な生産能力造成と関連した方向を提示」、「我が武力の強化において工場が占めている位置と役割の重要性について強調」

 金正恩の軍需工業部門への視察は、8月3日から5日にかけての「超大型口径放射砲弾生産工場」、「弱電器具工場建設状況」、「狙撃武器(小銃)生産実態、戦略巡航ミサイル無人機発動機生産工場」、「重要戦略武器台車(TEL)生産工場」及び8月11,12日の「戦術ミサイル生産工場」、「戦術ミサイル発射台車生産工場」、「戦闘装甲車生産工場」、「大口径操縦放射砲弾生産工場」に次ぐものである。

 今次報道で注目されるのは、従前の一連の視察に関する報道では、視察先の具体的な企業名称は避けつつも各々の生産品目を明らかにしていたのに対し、「北中機械連合企業所」については、具体的な企業名称を上げる一方、海軍艦船の製造への関与は示唆しつつも具体的な生産品目(例えばエンジンとか)を示唆する表現がなく、「重要軍需生産工場」に至っては、工場の名称はもとより生産品目についても何ら言及がないことである。

 とりわけ、後者の「重要軍需生産工場」については、何らかの特殊ないし秘密の兵器製造などを連想させるものであり、あるいは、敢えてそうした効果を狙っての報道ぶりであるのかもしれない(その存在をまったく秘匿したいのであれば、そもそも、金正恩の視察を敢えて報道する必要もない)。

 一方、「北中機械連合企業所」については、先の海軍司令部訪問で示した海軍重視姿勢の延長線上での訪問といえよう。前掲のような記事の表現ぶりからは、同企業所が(おそらくは金正恩の海軍強化方針表明を受けて)これまで停滞していた装備現代化・海軍装備生産の加速などに向け、工場が自発的に年末に向けた計画を発起したことを受け、金正恩自らこれを称揚・激励するため視察に及んだのではないかと推測される。 

 ※ 同視察を報じた韓国聯合通信の記事によると、同工場は、平安北道に所在し、船

  舶用ディーゼルエンジン及び部品、設備などを生産している由である。

 なお、同所視察に際し言及した「党中央委全員会議」については、次の開催時期は、年末が通例であるが、それでは、今から約4か月近く先のこととなり、やや迂遠な印象がある。あるいは、それよりも早期の開催を念頭においている可能性もあり得るのではないだろうか。

 また、同行者中の崔明哲副部長は、これまで報じられたことのない人物のようであるが、おそらく軍需工業部において海軍ないし船舶関係の部門を担当しているのであろう。一方、金予正については、以前の軍需工業部門視察のときも含めて、添付写真にはその姿がほとんどないことから、生産現場での「了解、指導」にはほとんど関与していないことがうかがえる。金正恩の「お世話係」としての同行ということであろう。

 いずれにせよ、かねて指摘してきたとおり、金正恩の軍事部門への傾斜がますます顕著になりつつあるように思われる。