rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年8月30日 北朝鮮の「戦略」と「戦術」概念について

 

 昨日の本ブログで紹介したとおり、金正恩は、海軍司令部における演説の中で、海軍への核戦力配備に関し、「戦術核運用の拡張政策にしたがって、(海軍)軍種部隊(複数)が新たな武装手段を引き渡され・・今後我が海軍は戦略的任務を遂行する国家核抑制力構成部分となるであろう」と述べたとされる。これをそのまま解すると、「戦術核(兵器)」を運用することが「戦略的」任務を果たすということになる。

 また、8月21日付け「労働新聞」に掲載された金正恩の海軍東海艦隊近衛第2水上艦船隊視察に関する記事では、その際、同人が「警備艦海兵の戦略巡航ミサイル発射訓練を参観された」と報じている。しかし、韓国軍の分析によると、実際にここで発射されたのは、一般的に言えば、「戦術巡航ミサイル」ともいうべきものであったとされる。いずれにせよ、前掲演説内容に照らすと、この巡航ミサイルは、核弾頭搭載を念頭においたものであったことがうかがわれる。

 こうした報道ぶりは、核戦力ないし核教理の実態を秘匿するための欺瞞策とも考えられるが、それよりは、むしろ「戦略」と「戦術」という言葉に(とりわけ核兵器に関して)北朝鮮独特の意義ないし用法があることの反映ではないだろうか。

 それについて一つの仮説を示すと、弾頭威力が比較的小さいものを「戦術核」と称する一方、核兵器の使用にかかわる事柄は、総じて、つまり「戦術核」の運用も含めて、「戦略(的)」と称している可能性を指摘できよう。その場合の後者の理由は、核兵器は、その他の通常兵器とは絶対的に異なり、その威力の程度を問わず、いずれも「核抑止戦略」の一環をなすものとして開発・生産・配備される、との発想が根底にあるためと考えられる。

 そのように考えれば、前掲のような「戦略」と「戦術」の一見、錯綜・混乱したような用法も、それなりに理解できるのではないだろうか。

 もちろん、この点については、従前からの使用例などを改めて慎重に検証する必要がある。ここでは、敢えて問題意提起の意味で愚説を披歴したまでである。