rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年1月4日 党中央委第8期第6回全員会議拡大会議結果まとめ(続)

 

 標記会議に関連して、昨日書き漏らした注目点及び金正恩「報告」の分野別要点を補足したい。

 まず、注目点として付け加えたいことは、第1議題(昨年の総括と新年の事業計画)について、前述のとおり、「決定書」策定に至る過程で、従前以上に様々な協議・集約の手続きを重ねたこと、あるいはそれを演出したことである。「決定書」が十分に練られたものであることをアピールし、その実践に向けての人々の取り組み意欲を喚起しようとの狙いが込められているのであろう。ただし、それだけ手数を掛けて作成した「決定書」は公開されていない。各職場などでの会議決定学習を伝える記事に添付の写真でも、人々が手にしているのは会議状況を報じた「労働新聞」である。折角、手間暇かけて作成した「決定書」だが、実際のところ、あまり多くの人の目に触れることはないのかもしれない。

 また、細かいことであるが、金正恩の「報告」中、昨年の成果を論じた部分の締めくくりで、「2022年が決して無意味ではない時間であり、明らかに我々は前進した」と述べたとされていることも注目点として指摘しておきたい。こうした発言の裏には、「2022年は、無駄な苦労ばかりで、見るべき成果は上げられなかった」との評価が潜在しているのではないだろうか。そうでなければ、殊更に「無意味」でなかったと強調する必要はないように思われる。人事面でも、内閣の化学工業相、軽工業相が更迭されている。余り成果の見られなかった化学工業部門責任者の更迭は理解できるが、軽工業部門は、「人民生活」重視方針を反映して多彩な成果が随分と喧伝されていただけに意外の感がある。実際には、それほどの成果をあげることができていないのかもしれない。あれほど宣伝された軽工業部門の成果が不十分ということであれば、昨年の経済は全般的に不振であったと総括せざるを得ない。金正恩は、そうした状況を知っているだけに、敢えて、「(それでも)無意味でなかった」と主張せざるをえなかったと考えられる。

 次に、金正恩の「報告」の分野別のハイライト部分を簡単(恣意的)に紹介しておきたい。

① 2022年の成果

  • 党活動:「党の活動と自体強化において刮目すべき成果と前進が成し遂げられた」
  • 軍事:「核武力政策を公式法化し万年大計の安全担保を構築」「国防力強化と対敵闘争で達成した劇的な変化を分析評価」
  • 経済、文化:「(平壌)華城地区(住宅建設)と蓮浦地区(温室野菜農園)建設で2022年の闘争を象徴する立派な成果」、「全国の市、郡で農村発展の新時代を代表する模範住宅(を建設)」 
  • ② 2023年の課題
  • 基本目標:社会主義建設で新たな局面を開くための全人民的な闘争をより拡大発展させ、5か年計画完遂の決定的担保を構築すること」
  • 経済:「全般的部門と単位の生産を活性化しつつ、党大会が決定した整備補強計画を基本的に終えることを経済事業の中心課題として提起」「古い思想傾向がいまだに巧妙な外皮をかぶって一部経済幹部の中に痼疾病、土着病のように引き続き潜伏・・あらゆる誤った思想残滓をきれに清算するための闘争を引き続き展開」「新年度に各部門で達成すべき経済指標と12個重要高地を基本目標として定め、その占領方法を具体的に明示」「住宅建設を第1次的な重要政策課題とし・・華城地区2段階1万世帯建設とともに新たな3,700世帯街区をもう一つ形成し、・・農村(住宅)建設により大きな力を注ぐ」「人民生活に実際的な変化をもたらすことを我が党が第一に重視」「人民経済発展と人民生活向上で牽引機的役割を果たす科学技術の重要性を正しく認識」
  • 社会:「各種の大衆的な愛国運動を活発に組織展開する上で提起される原則的問題を明示」
  • 国防建設:「北南関係の現状況と地域の平和と安全を厳重に脅かす外部的挑戦についての分析に基づき、自衛的国防力強化に拍車を加えることにういての重大な政策的決断が闡明」「最近、米国と敵対勢力は、・・人類史に探し出せない極度の対朝鮮孤立圧殺策動に奔走している」「米国は、・・軍事的圧迫水位を最大に引き上げる一方、日本、南朝鮮との3角共助実現を本格的に推進」「南朝鮮は・・無分別で危険千万な軍事増強策動に狂奔する一方、敵対的軍事活動を活発に行い、対決的姿勢で挑戦している」「(こうした)情勢は、・・圧倒的な軍事力強化に倍加の努力を加えることを要求している」「共和国の絶対的尊厳と自主権、生存権を盤石に守護するため・・迅速な核反撃能力を基本使命とするまた別の大陸間弾道ミサイル体系を開発する課題を提示」「南朝鮮傀儡が疑う余地のない我々の明白な敵として迫ってきた現状況は、戦術核武器の大量生産の重要性と必要性を浮き彫りにし、国の核弾保有量を幾何級数的に増やすことを要求しているとしつつ、これを基本中心方向とする2023年度核武力及び国防発展の変革的戦略を闡明」「最短期間内に・・初軍事衛星を発射するであろう」「軍需工業部門・・の献身と功勲を高く評価し、新年度に占領すべき武装装備開発と生産目標を提示」
  • 対外政策:「国際関係構図が『新冷戦』体系へと明白に転換され多極化の流れがより加速化する」「強体強、正面勝負の対敵闘争原則から我々の物理的力をより頼もしく確実にする実際的な行動へと移行することについての具体化された対米、対敵対応方向が闡明され、米国の同盟戦略に便乗して我が国家の神聖な尊厳と自主権を簒奪することに足を踏みいれ始めた国(複数)にも警鐘を鳴らした」
  • 国家制度:「国家管理機構体系を実利的に整備し、幹部の事業態度と働きぶりを改変するうえで提起される原則的問題も提起」
  • 党組織、活動:「各級党組織の戦闘力を強化し、党事業と幹部事業を根本的に改善」「特に・・道党委員会と道党責任秘書の事業において転換」

 全体を通じてやはり国防建設に力点が置かれている印象が強い。特に、韓国への対応として戦術核の開発・増産を挙げていることに注目される。こうなると、次の焦点は、その戦術核弾頭の爆発実験ということにならざるをえないであろう。下線部も具体的に何を意味するのか判然としないが、あるいは核実験を示唆しているとも考えられる。