rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年9月10日 金正恩施政演説の骨子

 

 昨日の「労働新聞」は、最高人民会議第14期第7回会議の2日目(9月8日)に行った標記演説を「偉大な我が国家の無窮の繁栄のために」との見出しの下、掲載した。

 その概要、注目部分は、次のとおりである。(見出し、番号等は便宜上付したもの)

1 「核武力政策」関連(全体の約4分の1)

  • 「法令」採択の意義を強調、称賛:「国家と人民の永遠の安全と万年大計の未来まで確固として担保」
  • 核武力堅持の必要性、意志を強調:「我々の核武器は・・数十年間の厳しく血のにじむ闘争により準備された抑制手段、絶対兵器」「米国は、(制裁により)我々が核を選択した代価について考えるようにし、党と政府に対する人民の不満を誘発、惹起させ・・ようと企図」しているが、「とんでもない!」、「圧迫に耐えかねて共和国政権と後代の安全を担保する核を対価」としてまで経済的環境の改善を求めない。
  • 核開発過程での人民の犠牲に言及、支持声援に謝意:核開発の成果は、「高貴な血の汗、苛酷な苦労と引き換えにしたもの」、その過程では「甚だしい苦痛と国難を甘受し」「すべての家庭にとてつもない生活難が招来されざるをえなかった」「党と政府を代表して全国の人民に最も衷心からの感謝とあいさつを謹んで捧げます」
  • 核政策「法化」の意義を再強調:「今後、もし我々の核政策が変わるなら、世の中が変わらなければならず、朝鮮半島の政治軍事環境が変わらなければなりません」「米国とその手先の反共和国策動が終わらない限り、我々の核武力強化路程は終わらないでしょう」「我々の核についてこれ以上、取引できない不退転の線を引いた、ここに核武力政策の法化が持つ重大な意義があります」。核管理の透明性、妥当性などもアピール ※こうした発言からは、今次「法化」に対外的なアピール(抑止力の強化)のほか、国内に向けての核保有政策の必要性・正当性アピールないし、意思統一の狙いも含まれているようにも思える。また、上記表現(下線部)は、将来における非核化交渉の可能性を残した(「反共和国策動」が終息したと認めれば可能)ものとも解釈できる。例えば、米国におけるトランプ再選なども視野に入れてのことかもしれない。

2 本年のこれまでの成果

  • コロナ防疫活動の成果を絶賛:各種活動を順調に推進したことも含め「奇跡のような成果」
  • 経済建設について、概ね肯定的に評価:「生産計画遂行で良い成果」「(国家事業全般で)社会主義的性格が復元されており」

3 今後の課題(全体の約3分の2)

  • 国防建設の重要性を強調:「国家防衛力建設を最優先、最重大視し、絶対的力を無限に注ぐ」「帝国主義侵略武力に比しての我が国家の確固たる軍事的優勢は必須不可欠の要求」「韓国型3軸打撃体系」など韓国の軍備増強を北朝鮮の「自衛力強化の正当性とその優先的強化の不可避な名分を提供」と揶揄。「核武力の戦闘的信頼性と作戦運用の効果性を高められるよう戦術核運用空間を不断に拡張し、適用手段の多様化を高い段階で実現」「先端戦術戦略武器体系の実践配備事業を不断に推進し、国の戦争抑止力を非常に強化するため、総力戦を全う」すべき ※今後の課題の筆頭に国防建設を置くのは近年では異例。今次施政演説の特徴といえる。
  • 政治・思想教育の活発化督励:「一心団結」を強化、「透徹した主敵観、対敵観念」
  • 経済部門の課題を列挙(人民生活関連事項に最大の比重

   〇 「5か年計画」の重要性強調:「2025年末までに2020年水準より国内総生産額を1.4倍以上、人民消費品生産を1.3倍以上に成長」させる。内閣の権限強化を加速

   〇 食糧問題、人民消費品問題解決のため、農業生産、軽工業発展

   〇 農村振興:農業勤労者の啓発、農村住宅建

   〇 基幹工業

   〇 国土管理、災害防止、特に治水事業

  • 文化部門

   〇 科学、教育

   〇 医療。保健

  • 対外政策方針:「一極世界から多極世界への転換」の顕著化を指摘、「我が党の尊厳死守と国威向上、国益守護を共和国外交の第一使命として」推進。「我が国を尊重し友好的に接する資本主義国とも多方面的な交流と協力を発展」(対南関係への言及はなし)
  • 政府機関の組織的課題

  〇 党の唯一的領導体系確立

  〇 政権機関の機能と役割発揮(対人民奉仕活動など)

  〇 幹部の活動姿勢改善