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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年9月28日 最高人民会議第14期第9回会議の開催を報道(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が9月26,27日の両日開催されたことを報じる記事を掲載した。

 特徴を先に述べると、①核兵器保有・開発に関する条項を盛り込む憲法改正を行ったこと(採択後、「第1議題討議の傍聴として参席」した金正恩がその意義を称えるなどの演説を実施)、②国家宇宙開発局が国家航空宇宙技術総局に改編されたこと、③人事異動は内閣メンバー6人など小幅にとどまり、金徳訓総理は解任されなかったこと、である。

 このほか、障害者権利保障法、灌漑法、公務員法の制定、金融部門における法執行状況の総括などがあったが、これらは予定されていたことであり、特段の注目点は認められない。

 以下、会議の開催状況について、6つの議題ごとに骨子を整理しておく。

第1議題:「憲法の一部内容を修正補充」(報告・崔竜海常任委員長)

  • 憲法修正の意義:「(昨年第7回会議での)国家核武力政策法化の成果を土台として、現代的な核武力建設と共和国武装力の時代的使命に関する国家活動原則を社会主義憲法に固着させる」
  • 修正内容:①「朝鮮民主主義人民共和国は、責任ある核保有国として国の生存権と発展権を担保し、戦争を抑制し、地域と世界の平和と安定を守護するため核武器発展を高度化する」、②「共和国武装力の使命が国家主権と領土完整、人民の権益を擁護し、すべての脅威から社会主義制度と革命の獲得物を死守し、祖国の平和と繁栄を強力な軍力で担保することにある」
  • 金正恩が演説:憲法修正の意義、核開発方針に加え、今年の成果。今後の活動課題等(詳細後述)

第2、第3、第4議題:障害者権利保障法、灌漑法、公務員法の制定(康尹石・常任委員会副委員長が一括して報告、代議員6人が討論)

・  「障碍者の社会政治的、経済文化的権利を徹底して保障し、彼らが国家と社会の主人として生きがいある生活を享有するようにする」

  • 「農村経理の水利化を高い水準で実現し、農業生産の持続的で安定的な発展を保障」
  • 「公務員隊列をしっかりと整備し、党と国家政策の正しい執行を保障し、国家管理を改善」

第5議題:金融部門法執行状況総括(朴正根内閣副総理・国家経済委員会委員長が報告)

  • 「金融部門法執行においての成果と経験、偏向と教訓を分析総括」
  • 「国家の統一的な金融管理体系を補完し国家経済発展を実質的に推動していく上で切実な実践的問題(複数)に言及」

第6議題:国家宇宙開発局を国家航空宇宙技術総局に改編(報告者等明記されず)

第7議題:組織問題

  • 内閣メンバーの新任:機械工業相(안경근)、国家建設監督相(리순철)、国土環境保護相(전철수)、収買糧政相(김광진)、中央銀行総裁(백민광)
  • 最高人民会議法制委員会委員補選:최근영, 박창호, 리영철の3人

 また、別途記事において報じられた金正恩演説の重要部分は、次のとおりである。基本的にこれまでの主張の繰り返しであり、格別の新味は認められない。

  • 今年の成果:「経済建設の各分野においてははっきりとした成長推移を示している」(「豊作を収めている農業発展の驚くべき現実」、住宅建設などに言及)、「最も大きな成果は、国の国家防衛力、核戦争抑制力強化において飛躍の全盛期を確固として開いたこと・・我が共和国核戦略武力の信頼性を万邦に誇示し敵対勢力を克服できない脅威と恐怖の中に陥れた」
  • 憲法修正の意義:「核武力建設政策が誰によっても、何によっても損なうことができないよう国家の基本法として永久化されたことは、核武力を含む国家防衛力を非常に強化し、それによる安全担保と国益守護の制度的、法律的基盤をしっかりと固め、我々式社会主義の全面的発展を促進させることができる強力な政治的武器を準備した歴史的事変である」
  • 核開発路線の正当性と今後の方針:「(もし)他人の核の傘に漠然とした期待をかけ(たり)・・(帝国主義者の)『善意』と華麗な誘惑に幻想を抱いて核保有路線を決断できなかったとしたら・・今日の誇らしい現実は想像さえできなかった」、「核武器の高度化を加速的に実現していくことが極めて重要な問題」、「瞬時も止まることなく推進すべき重大課題は核武力を質量的に急速に強化することであるとしつつ、核武器生産を幾何級数的に増やし、核打撃手段の多種化を実現し、諸軍種に実戦配備する事業を実行していくことについて強調」
  • 対外政策:「革命に有利な条件と環境を準備するための対外活動を幅広く展望性をもって展開するとともに、反帝自主的な国々の前衛において革命的原則、自主的帯(?)を確固として堅持しつつ米国と西側の覇権戦略に反旗を掲げる国家(複数)との連帯をより一層強化していくことについて強調」
  • 今後の国内課題:「12個高地をはじめとした経済目標を輝かしく達成し国の経済事業と人民生活問題解決において実質的な変化をもたらすことは、第一に切迫した課題として提起される」(特に、農業、住宅建設の重要性指摘)、「科学と教育、保健をはじめとした社会主義文化部門においてはっきりとした決定的改善をもたらさなければならない」 
  • 以下の部分加筆

     核開発方針を憲法に盛り込んだ今次措置の意義ないし狙いについては、核開発を実質的に促進するというよりは、内外に向けて、改めてその堅持の意志及び加速化を印象つけることに重きがあると考える。

     更に言うと、上述のような金正恩演説の内容(核開発の正当性強調)からは、とりわけ国内向けの狙いがうかがえる。それは、換言すると、今に至っても、核堅持路線に対する懐疑・疑念がなお根強く残っていることの反映といえよう。演説文中の「共和国が世界最大の核武器保有国であり、最も危険な戦争国家である米国とその追従勢力との長期的な対決の中で自衛のため不可避に核を保有し、核武力強化政策を法化したことは、世界が公認する事実です」との表現も、国内向けを念頭に置いていることをうかがわせるものといえる。