rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年9月9日 核ドクトリン法制化(詳報)

 今次最高人民会議において「法令」として採択された「朝鮮民主主義人民共和国核武力政策について」の注目点はつぎのとおり。

  • 最大の眼目は、核兵器について、「戦争を抑制することを基本使命」とし、「戦争抑制が失敗した(敵の攻撃を受けた)場合、敵対勢力の侵略と攻撃を撃退し戦争の決定的勝利を達成するための作戦的使命を遂行する」(第1項)とし、「外部の侵略と攻撃に対処する最後の手段」(第5項などとの原則を掲げつつも、実際的には、使用条件として次の5類型を示し(第6項)、非常に広範な状況での核使用の可能性を示したことである。その類型とは、①共和国に対する核兵器その他大量殺戮兵器による攻撃があった又は切迫していると判断される場合、②国家指導部、国家核武力指揮機構に対する攻撃があった又は切迫していると判断される場合、③国家の重要戦略的対象に対する致命的な軍事攻撃があった又は切迫していると判断される場合、④有事において作戦上の必要が不可避な場合、⑤国家の存立と人民の生命安全に破局的な危機を招来する事態が発生し、核兵器以外で対応できない不可避の状況である。このうち、②は、指導部に対する「斬首作戦」や核施設・兵器に対する「外科手術的攻撃」などを念頭においたものであろう。また、①~③のいずれも、現実の攻撃のみならず、それが切迫していると判断すれば条件を満たすことになる。また、④は、「有事」の意味が曖昧であり、仮に戦争状況を指すものとしても、その場合は、事実上、いつでも使用可能ということになる。更に、⑤も、一層曖昧な規定だが、例えば、国内で内乱・反体制暴動などが発生した場合を念頭におき、それへの介入を抑止する狙いがあるとも考えられる。なお、「非核国」に対しては、核保有国と「野合」して北朝鮮への「侵略や攻撃行為に加担しない限り」、核武器による威嚇や使用は行わないとしている(第5項)。ここでも「加担」の概念が曖昧だが、いずれにせよ、韓国及び日本を念頭に置いた規定であろう。加えて、第11項では、「この法令のいかなる条項も・・正当な自衛権行使を拘束又は制限するものと解釈されない」としており、実際的には、「自衛権行使」の名目さえあれば、いかなる状況でも使用しうるという規定といえる。
  • 次の眼目は、そうした核武力に対する指揮権限を規定したことである。具体的には、指揮権限は、「国務委員長の唯一的指揮に服従する」こととした上で、それを補佐する「国家核武力指揮機構」という概念を示している(第3項)。なお、ここでは、それらを含むとみられる「指揮統制体系」に対する危害行為には、「事前に決定された作戦方案」に従って、即時に核攻撃で報復することを強調しており(同上)、そうした企図に対する警戒心の強さをうかがわせている。更に、「核武器使用命令は即時執行する」こと(第4項)及びそれを担保しうるよう「経常的(恒常的の意)な動員態勢を維持する」こと(第7項)を規定している。
  • このほか、核武力の保管管理における安全維持、核物質の流出防止などに万全を期すこと(第8項)、核兵器、核物質、関連技術などの伝播(拡散)を行わないこと(第10項)、一方で、核武力及び核戦略の増強・更新に継続的に努めること(第9項)なども規定している。

金正恩の施政演説は、長すぎていまだ読み切れていないので、別項で論じます。