rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2024年1月4日 党中央委第8期第9回全員会議拡大会議の特徴点

 

1 経済面

昨年度の成果を高く評価。「12高地」すべて達成と主張し、具体的指標に言及。一方、今年度の経済課題には、特段の新味・具体性なし

  • 23年成果:「社会主義建設と国力強化の各方面で今後の前進速度を一層速められる有利な条件と強固な足場を築く画期的な成果を収めた」
  • 「人民経済発展12高地」をすべて達成と主張、「穀物は103%、電力、石炭、窒素肥料は100%、圧延鋼材は102%、非鉄金属は131%、丸木は109%、セメント、一般織物は101%、水産物は105%、鉄道貨物輸送量は106%であり、住宅は建設中の世帯数が109%」(ただし、実数言及は住宅建設のみ。農村住宅は「5万8000余世帯」)
  • 2020年度比で「国内総生産は1.4倍」と主張。金正恩最高人民会議第14期第7回会議(2022年9月)の施政演説で「国家経済発展5か年計画」の目標として「2025年末までに2020年水準より国内総生産額を1.4倍以上、人民消費品生産を1.3倍以上に成長」を提示、既に同目標達成を意味。しかし、信憑性に疑問の余地。こうした「成果」強調の背景には、経済制裁を前提とした「自力更生」路線に対する国内各層の不安・懐疑を払拭し、金正恩の領導及びそれに基づく成長潜在力に対する信頼、自信を扶植しようとの狙いが込められていると思料される。
  • 24年度目標については、優先的課題として、「国家的な行政・経済事業体系と秩序を強化」を上げ、内閣の「全般的国家管理機関」としての機能発揮を強調。中央集権的経済運営方針の推進を改めて示唆
  • また、「12の重要高地を引き続き押し立てて、そこに力を集中することについて強調しながら、金属、化学、電力、石炭、機械、鉄道運輸をはじめ基幹工業部門で遂行すべき重点課題を提示した」とされるが、具体的目標数値はもとより、「12高地」の具体項目についても未公表
  • 産業部門別では、異例にも、冒頭に「重要機械工場の現代化」、次に「国土環境保護部門と都市経営部門」に言及。その余は、農業(基盤整備、科学化等)、軽工業、漁業など従前と同様。
  • 金正恩が今年初の視察先として、1月2日、金徳訓総理以下党・政府高官多数を帯同して「農業機械工業発展2023」会場を訪問したのは、全員会議での発言補足の意味合いも。「農産作業の機械化目標実現では数字よりも質が優先」、「現存農機械製作技術力に対する正確な評価を下し、それに基づき展望的な発展計画を科学的に作成」を強調

2 軍事・対外面

米韓の対北動向に対する批判を詳細・具体的に展開。それを根拠に軍事力整備の加速化・「戦争準備」促進を訴えると同時に韓国との関係希薄化をこれまで以上に鮮明化、「対敵活動で断固たる政策転換」を表明

  • 情勢認識として、「現在の重大な情勢は、・・・圧倒的な戦争対応能力と徹底して完全な軍事的準備態勢を完璧に整えるための事業に引き続き拍車をかけることを求めている」、と主張、「万一の場合、発生しうる核危機事態に迅速に対応し、有事の際に核戦力を含む全ての物理的手段と力量を動員して南朝鮮の全領土を平定するための大事変の準備に引き続き拍車をかけていくべきである」として軍事力整備加速化を闡明。
  • 会議後の金正恩の軍主要指揮官との謁見は、こうした軍事力重視方針の更なる印象付けを図るもの。あわせて軍内の士気向上の効果
  • 23年における偵察衛星打ち上げを「驚異的な出来事」と自賛した上で、「2024年に3つの偵察衛星を追加に打ち上げる」方針を表明
  • 韓国との関係につき、「北南関係は、これ以上、同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係に完全に固着された」、「党中央委員会統一戦線部をはじめとする対南事業部門の機構を整理、改編するための対策を立て、根本的に闘争の原則と方向を転換すべき」などと主張。新年早々の崔善姫外相による協議会開催により早速の実践を誇示。
  • 対韓路線の転換は、実際は、「我が国家第一主義」スローガンの下、2019年以降追求してきた事実上の2国家並存路線をより鮮明化・公式化するもの。尹政権発足後の米韓の動向は、その契機に過ぎず(「今まで傀儡政権が10余回も交代したが『自由民主義体制下の統一』基調は少しも変わらず、そのままつながってきた」)。1月2日付け金予正「談話」は、そうした路線転換の背景・認識などを一層端的に示唆

3 その他

  • 人事異動:大規模な異動を実施(中央委員会メンバーの約15%相当を補選)。政治局メンバー・秘書などでは出戻り多く、人材の限界を反映とも言えるが、信賞必罰の徹底の側面も否定できず。具体的内容は不詳ながら「党の指導的機能を強化するための一連の」措置」の策定(第5議題)などとあわせ、幹部の引き締め、活動活性化に腐心の跡。会議終了後の中央委メンバーを招いての宴会開催にも同様の企図がうかがえる
  • 金正恩指導ぶり:「司会」を報じられたのみならず、第1議題での「報告」及び「結論」、第2議題での「報告」及び発言、第6議題の提案・採択、「閉会辞」など、精力的な指導ぶりを発揮(ただし、政治局会議は欠席)。昨年6月開催の第8回全員会議時(「司会」表現、「報告」等発言報道一切なし)とは極めて対照的。特に第2議題では、「育児政策」への傾注姿勢を改めて強調、「慈愛の深さ」を印象付け