rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

11月7日 論説「教員陣営強化は教育強国、人材強国建設の重要な担保 教育事業発展の先決条件」

 

 北朝鮮が近年、科学技術振興に全力で取り組んでいることは昨日のブログで述べたとおりであるが、それを実現するためには、まず教育の充実が必要であり、さらに、その「先決条件」となるのが教員の養成・資質向上であるとして、その方策を論じているのが本論説である。

 同論説がその方策の冒頭に掲げるのは、「小学校、中学校段階の教育を受け持つ教員を質的に(質を保って、の意か)養成すること」である。そうして「不足する小学校、中学校教員を至急に補充」するとともに、「現職教員に対する再教育を実施し知識と技能の老化を防ぎ、彼らの資質を時代の要求に合うよう不断に高める」ことも求めている(ここで言う「中学校」には高級中学校すなわち我が国の高校も含むと思われる)。

 以上の記述からは、北朝鮮の初中等教育部門の教員に関し、主として二つの問題が存在することがうかがわれる。第一は、教員の絶対数が不足していることである。第二は、現職教員の知識、技能が「時代の要求」に対応できていないことである。

 このうち第一の教員数の不足については、その理由が注目される。人口動態的に小中学生が急増しているのか(需要増大)、あるいは、何らかの理由で教員志願者の減少や現職教員の転職と言った現象が起きている(供給低下)のであろうか。後者であるとすれば、仮説としては、最近の市場原理的要素の導入で国営企業などでは利潤に応じて相当高額な報酬が支払われる中、教員の処遇が相対的に魅力のないものになっている可能性が考えられる。

 第二の問題の背景としては、北朝鮮の社会変化ないし経済成長といったものが急速に進んでいることが考えられる。例として想定し得るのは、昨日のブログでも紹介した「情報化」「知識経済」「数字経済」などの潮流であろう。金正恩は、これらを国際水準にひけをとらない形で導入・体現することを目指しており、教育分野では、それを担う人材の育成が至上命題になっていると考えられるが、大半の教員は、そのような流れについていくことができないのであろう。

 論説が掲げる次の方策は、「大学教員陣営を一層強化」することである。そのため大学院在学生の中から適性の認められる者を選抜し大学教員として育成することなどを求めているが、注目されるのは、国外留学経験者をその中核とみなしていることである。すなわち「外国に送って勉強させた学生たちを大学教育部門にも配置し、一名が十名、十名が百名の人材を育てるように」することを求めているのである。「自力更生」とは言いながらも、先進的な学術部門などに関しては、国外からの知見を積極的に吸収しようとの姿勢が改めてうかがえる。

 論説は、最後に「教員陣営を強化する問題は祖国の前途と革命の運命に関連する重大な問題」であるとして、各層幹部に対し、その充実強化に力を注ぐことを訴えている。

 この論説で最も注目された点は、書かれていたことよりも書かれていなかったことである。と言うのは、教員に求められる資質なり適性なりに関連して、従前であればまず筆頭に掲げられたであろう思想的純潔性であるとか首領や祖国、革命に対する忠誠心とかに類する事柄への言及がほとんど見られないのである。金正恩は、以前のブログで紹介したとおり、教員に対し、言葉の上では「職業的革命家」たれと訴えたが、そこで実際に期待されているのは、上述のとおり、現代的・先進的な知識及びそれを適切効果的に理解習得せしむる実務的な技能なのであろう。