rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月21日 北朝鮮教育界に不正腐敗が蔓延?

 

 本日、「教育者は高尚な精神道徳的品性を帯びなければならない」と題する論説が掲載された。同論説は、教育者すなわち学校教員に求められる「高い精神道徳的品性」として、具体的には、①教育者的良心、②母性、③原則性と責任感、を上げている。

 この中でまず注目されるのが①である。ここでは、「良心」に欠ける行為として、「目の前の利益や功名心を追求する」とか「(教員が自分の)生活上の隘路を理由にして自分の良心を打ち捨て私心に目がくらみ・・」とかの行動が批判されている。

 また、③については、「教員が学生の実力と品行を正確で公正に評価」することが求められており、「万一、教員が私心と偏見に捕らわれて学生を差別し、彼らに対する評価と推薦を不正に行うなら、それは党と祖国を騙し自分自身を汚す危険な行為である」との戒めがなされている。

 これら記述から読み取れるのは、率直に言えば、北朝鮮の教員が生活難などを背景として、学生・生徒の親から賄賂や何らかの便宜などの供与を受けて、学生・生徒の評価や進路に関する推薦に手心を加えるなどの不正腐敗現象が存在するということである。しかも、このような論説が労働新聞に掲載されるということは、そのような現象が、決して例外的・局所的にではなく、相当程度の広がりをもって蔓延していることを示すものといえよう。

 北朝鮮では、金正恩時代に入って以降、科学技術の振興及びそれを担う人材育成の重要性が従前以上に強調され、それに伴って、科学者、技術者、研究者などの処遇改善、学校教育とりわけ実務的教育の質的改善(近代化とも言えよう)などに相当の力が注がれてきたことは間違いない。それは、まさに金正恩の「目玉政策」の一つと言いうるものであろう。比喩的に述べるなら、私は、北朝鮮の子供たちに一番人気の職業は、かつて「軍人」あるいは「党官僚」であったとするなら、今は「科学者」ではないかとさえ思っている(まったくの想像だが)。

 そのような施策にもかかわらず、あるいはその副作用としてなのかは定かでないが、上記のような負の現象も生じているということであろう。

 ちなみに、去る9月に開催された第14回全国教員大会において、金正恩からの「教員たちは党の教育革命方針貫徹において職業的革命家の本分を尽くさなくてはならない」と題する文書が伝達されたとの報道があった(9月3日付け)。この時強調されたのは、金正恩が教員を「職業的革命家」(いわば党の活動家に類するもの)と位置付けたということであった。この報道に接したときは、前述のような近年の科学技術ないし実務教育重視の傾向に照らして、やや違和感を感じたのだが、本日の上記論説を読んで思うのは、広く教員に対してそういった「革命性」と言うか「精神的高潔さ」を訴える必要があったのか、ということである。

 ただ、韓国でもかねて超学歴社会を背景に教育界における「お金」の問題が様々指摘されているようである。北朝鮮の前述のような現象が、そのようなメリット・システムを基調とした高度成長社会への進入に伴う副作用と言う新たな現象なのか、あるいはかねて指摘されてきた伝統的な官僚の不正腐敗現象の一端に過ぎないのか、上記論評だけをもって論じるのは早計であろうが、管見(そしてとみに衰え気味の記憶)の限りでは、このような教員の不正腐敗現象を示唆するような論調は余り一般的なものではなく、前者の可能性も否定できないと考える。