rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2月29日 「朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議開催」

 

 標記会議の開催状況を報じる記事が掲載された。開催日には言及がない。会議は、金正恩が「指導」したとされ、「政治局委員と候補委員たちが参加」したほか、「党中央委員会とその他単位の幹部たちが傍聴として参加」した。「政治局の委任」により、金正恩が「会議を運営執行した」とされる。会議を「指導した」と述べた上で、更に「運営執行した」との表現は、余り例がないのではないだろうか(特段の意味があるのかは不明だが)。

 会議における討議事項については、①「革命発展の要求に合わせ党建設と党活動において人民大衆第一主義を徹底して具現し、党の隊列と戦闘力を不断に強化するための原則的問題」、②「当面の政治、軍事、経済的課題を正確に遂行するための方法的問題」、③「世界的に急速に伝播しているウイルス伝染病を防止するための超特級防疫措置を取り、厳格に実施することに関する問題」とされる。

 このうち、報道等で大きく紹介されているのは③についてであるが、この時期、金正恩が防疫措置の更なる徹底を指示するのは当然であり(むしろ遅すぎたきらいさえある)、これ以上の紹介は省略する。

 むしろ、注目されるべきは、①であり、それは、具体的には高位幹部らの粛清を意味する。すなわち、「最近、党中央委員会の一部幹部の中で我が党が一貫して強調する革命的事業態度と作風とは異なる、極度に官僚化した現象と権柄的行動が発露され、我が党骨幹育成の中心を担う党幹部養成基地において厳重な不正腐敗現象が発生した」というのである。これを受けて、会議では、「(それらの)非党的行為と権柄、特権、官僚主義、不正腐敗行為が集中批判され、その厳重性と後遺が辛辣に分析」され、結果、李万建(党政治局委員・副委員長・組織指導部長)と朴泰徳(音訳。党政治局委員・副委員長:農業担当と推定)を「現職から解任」するとともに、「党幹部養成基地の党委員会を解散し該当する処罰を適用する」ことを決定した。また、金正恩は、「すべての党幹部と党組織がこのたびの事件から深刻な教訓を得て、自分自身と自分の単位を革命的に不断に鍛錬するために努力し、新たな転換を起こすことについて強調」したとされる。

 党組織指導部と言えば、幹部の人事・規律を掌握・統制する最重要部署である。その部長が以上のような批判を浴びせられて解任されるというのは、労働党の歴史においても極めて稀有な出来事である。また、「我が党骨幹育成の中心を担う党幹部養成基地」は、おそらく金日成高級党学校を指すのであろうが、そこの党委員会が「解散」という措置を受けるということは、組織ぐるみの不正腐敗構造が存在していたということであろう。この二つが同時に事件化されたということは、党組織にとって、ある意味、「コロナウイルス」以上の衝撃的出来事であろう。ちなみに、1月17日の本ブログで「トロツキー批判」を紹介したが、それと本件との関連も注目される。

 更に憶測を逞しくすると、組織指導部長の更迭は、金正恩の妹・金予正が最近、同部の第一副部長に就任したことと関連している可能性も否定できない。同女と部長との間に指導権などをめぐる確執が生じたため、部長が「官僚主義」などの名目で排除されたというシナリオである。ただ、それを示唆する具体的根拠は何もないので、これ以上の推測は控えたい。

 なお、②については、具体的に報じられているのは、「平壌市と地方の住宅建設を促進するための対策的問題意が討議された」ことだけである。ただ、前後の文脈がやや判然としないが、金正日が「党中央の思想を正しく認識し、行動実践に移すことが重要と述べつつ、内閣と各経済機関が現状況に合うよう経済作戦と指揮を実現できるよう党的に力強く推進することについて強調」したとされている。これは、ウイルス防疫対策との配合とも絡めて、「正面突破戦」で本来想定していた経済課題への取組みなどをいかに推進していくかといった問題について指針を示したことを指しているとも考えられる。

 いずれにせよ、北朝鮮は、コロナウイルス問題に加え、党組織の立て直しという高度の危機的・緊張状態にあると考えられる。