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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年6月30日 党中央委第8期第2回政治局拡大会議を開催(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が6月29日、党本部庁舎で開催されたことを報じる記事を掲載した。

 同会議は、「一部責任幹部(高位幹部)達の職務怠慢行為を厳重に取り扱い、全党的に幹部革命の新たな転換点を準備するため」のものとされ、政治局メンバーのほか、党中央委員会幹部、省・中央機関党・行政責任幹部、道党責任秘書と道人民委員長、市・郡と連合企業所の党責任秘書、武力機関・国家非常防疫部門の幹部が参加したという。この参加者の顔ぶれは、先の中央委員会全員会議と変わらず、今次会議は、実質的には中央委員会全員会議に準じるものであったといえよう。

 会議では、冒頭、金正恩が会議招集の目的に関し、「国家重大事を託された責任幹部達が世界的な保健危機に備えた国家非常防疫戦・・に対する党の重要決定執行を怠ることによって国家と人民の安全に大きな危機を醸成した重大事件」に言及した上で、「(党の)重大課題貫徹にブレーキを掛け妨害をしている重要因子は、幹部の無能と無責任性」であるときめつけ、「幹部の中にあらわれている思想的欠点とあらゆる否定的要素との闘争を全党的により強く展開する」ための「全党的な集中闘争、連続闘争の序幕」とすることが「今次会議の真目的」であることを明らかにした。

 その上で、「党決定執行において発露された党及び国家幹部達の非党的行為から深刻な教訓を得ることについての問題」を議題として採択し、まず、「資料通報」が行われた。

 そこでは、「一部責任幹部達の職務怠慢行為が詳細に通報」されるとともに、「保身主義と消極性にとらわれ、党の戦略的構想実現に阻害を与え、人民生活安定と経済建設全般に否定的影響を及ぼした過誤の厳重性が辛辣に分析された」という。

 その後、こうした「重要課題貫徹で無知と無能力、無責任制を発露させた幹部達に対する鋭い批判が展開された」という。報道写真では、金予正を含む12人が演説台で発言する姿が紹介されており、これら人物がこうした批判を行ったとも考えられる。こうした「討論」では、「(一部の)責任幹部達が党中央の構想と領導実現に害毒的後禍をもたらすに至った思想的根源について党的原則から政治的に鋭利に分析批判」し、会議参加者は、「幹部の保身と消極性、主観と独断が我々の前進を妨げ党と人民の利益を害する主たる障害であるとの深刻な教訓」を得たとされる。

 会議では、引き続き、「党決定に対する態度と観点が不透明で敗北主義に陥り託された事業を革命的に展開しないでいる中央と地方の一部幹部に対する資料通報」が行われ、これらの者を「徹底して党的に、法的に検討調査し、該当の対策を立てることについての決定」が採択されたという。

 おそらく前段で高位の「責任幹部」に対する批判が「討論」を伴う形で詳細具体的に行われ、後段では、その他の一般幹部に対する批判が包括的になされたものと推測される。

 この後、金正恩が「結論」を述べ、「幹部の痼疾的な無責任性と無能力こそが党政策執行に人為的な難関を作り出し、革命事業発展に莫大な阻害を及ぼす主たるブレーキ」であるとの指摘を繰り返すとともに、「幹部の非革命的な闘争姿勢と観点、行為を克服するための攻勢的で持続的な強力な闘争を展開する意志」を明らかにしたとされる。更に、「今こそ先鋭に提起される経済問題を解決する前に幹部革命を起こすべきとき」であるとして、「すべての幹部が自らの事業作風と道徳品性に我が党の権威とイメージがかかっているということを常に銘記しなければならない」と訴えたとされる。

 会議は、その後、「組織問題」を議題として、「政治局常務委員、政治局委員、候補委員(複数)」、「党中央委員会秘書」及び「国家機関幹部(複数)」をそれぞれ解任・選出したとされるが、具体的人名については言及していない。

 党幹部に対する綱紀粛正の動きは、先の中央委員会第8期第3回全員会議においても、「党中央指導機関メンバーの2021年上半年度の党組織思想生活状況に対する総括」いう異例の形で議題の一つとして取り上げられていた。それからわずか10日余りで全員会議に匹敵する規模の会議を開催し、前述のような形での幹部の姿勢に対する批判が繰り返されるということは、尋常とはいえない。とりわけ、今次会議での批判は、「責任幹部」を含むものであり、その内容も「党中央の構想と領導実現に害毒的後禍をもたらす」など金正恩の意向実現に消極的な姿勢が示唆されているなどの点で政治的にも重要・深刻な動きといえよう。

 当面、「組織問題」の中で解任された常務委員が、金正恩を除く4人のうち誰なのかが注目される。誰であれ、その影響は小さくないであろう。また、「経済問題を解決する前にも」行うとされる「幹部革命」とは、具体的に何を意味するのか。何やら経済問題がうまくいかないことを見越してのスケープゴートでっち上げのような印象もするが、今後の展開が注目される。

 以下加筆部分:同会議の状況を報じた朝鮮中央放送のテレビ番組をみて、次の点が明らかになった。

・幹部らの問題行為に関する「資料通報」を行ったのは、前段の「責任幹部」に関するものも後段の「中央と地方の一部幹部」に関するものも、共に趙勇元組織秘書(常務委員)とみられる。

・彼らを批判する「討論」を行ったのは、趙勇元のほか、金才龍組織指導部長、李日換勤労団体部長、鄭慶沢国家保衛相、李英吉社会安全相(?)、玄松月宣伝扇動部副部長、金予正(同)らである(このほか何人か顔が写されたが私は特定できず)。

・「組織問題」で、地位を解任されたのは、政治局メンバーの中では、李炳哲(常務委員、党秘書)及び朴正天(政治局委員、軍総参謀長)の模様である。主席団に座った19人の政治局委員のうち、この2人だけが同件に関する採決で挙手していない。また、この採決の際、崔相健(政治局委員、党秘書兼科学教育部長)が突然席をはずしており(その直前までは着席していた)、同人についても解任の可能性がある。

金正恩が「結論」を述べている途中で、金徳訓総理が起立させられて何やら言われている光景が映し出されている。同人についても、解任は免れたものの、なんらかの批判を受けた可能性がある。

・このほか、「労働新聞」の記事中に記載されていた点であるが、金正恩は、「結論」の最後で、「各級党組織において幹部隊列を忠実性においても革命性、人民性、実力においてもしっかりと準備された対象(人物)によって整簡化、精鋭化すること」を強調したとされる。幹部の粛清は、この会議で批判された人物にとどまらず、今後、全党的に実施される可能性があろう。