rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

8月14日 第7期第16回政治局会議補論

 標記会議の結果に関連して、前稿で論じきれなった点について、いくつか補足したい。

 第一は、総理の更迭についてである。金才竜前総理は、これまで政治局常務委員会メンバーである崔龍海、朴奉柱の両人に準じるような扱いを受けていたが、結局のところ、在任中も今回の常務委増員に際しても、同委員になれなかった。一方、後任の金徳訓は総理就任と同時に常務委員会委員に選出されている。今後の処遇を見ないと確実なことは言えないが、やはり左遷の可能性が高いと考えられる。その真の理由は、「現地了解」を精力的にこなすなど、これまで比較的頑張ってきたような印象もあり、不詳といわざるをえないが、金正恩平壌総合病院建設場指導(7月20日報道)において建設連合常務が批判された際、立たされていた写真があり、この際に批判対象になったのかもしれない(ただ、この時は、朴奉柱も共に立たされており、これだけが決定的な出来事とは考えにくい)。より直接的な契機としては、今月5日開催の政務局会議において、「政府機関の主要職制幹部たちの事業状況について評価し、該当の対策について合意した」とされていることから、この時に本人のみならず内閣全体として芳しからぬ評価が下され、その監督責任的な意味合いがあったとも考えられる。

 ただ、そうは言っても、政治局委員・党副委員長の地位は、軽いものではなく、今後は、党中央において基幹工業部門などを担当する部の責任者として引き続き活動を続けるのであろう。その成果によっては、更なる発展の可能性は、なお残されていると考えられる。

 第二は、中央委員会に新設された部署についてである。それが治安・安全部門に関連するものであることは前稿で指摘したとおりであり、そのような部署の新設は、かねて指摘してきた社会綱紀の弛緩(非社会主義的現象、革命的信念の動揺など)に対する危機感を反映したものといえよう。ただ、前稿で記述したとおり、新たな「部長」就任が報じられた者は、いずれも別の部を担当すると見られるだけに、当該新設部署の責任者が誰になるかは今後の注目点といえよう。

 また、先の政務局会議において、「党中央委員会に新たな部署を設けることについての機構問題を検討審議し、党内の幹部事業(人事)体系を画期的に改善するための方途的問題について研究協議した」とされた際の「新たな部署」が、これであったのかについても、なお検討が必要と思われる。仮にそうであれば、この文章後段の「幹部事業改善」については、部署新設とは別途の問題として、何らかの措置が講じられているのであろうか。あるいは、新設部署が幹部に対する監察・評価などの機能も併せ持っているのか(今次会議報道から、それをうかがうことはできないが)。金正恩の既存幹部に対する不満が高じているようにもみえるだけに、この点にも関心がもたれる。

 第三は、かねて指摘されてきた「金与正台頭」説との関連についてである。今次会議における議事ないし決定内容を基準に、それを再検討すると何が言えるのか。結論的に言うと、巷間一部で伝えられるような「金正恩健康悪化を背景とした後継者としての地位確立」という仮説とは、整合的なものとは考えにくい。仮にそうであれば、可及的速やかに同女の地位向上を進めるべきところ、非公開の特段の決定事項でもあれば別だが、報道された限りでは、そういった動きは何ら認められない。むしろ、常務委員会が3人から5人に増員されたことは、公式行事等における金与正の席次が常務委員より格下に位置付けられている現状(7月28日付け本ブログ「老兵大会」出席幹部報道から見た金与正の公式序列、を参照)を前提にすると、相対的に同女の序列上の低下をもたらすことになる。やはり、同女の「台頭」は、相当慎重ないし抑制的に(あるいは抑制を受けつつ)進められていると見た方が妥当ではないだろうか。

 以上、思いつくまま、とりあえずの雑駁な感想を書き連ねた。注目点とした事柄を中心に更なる注目・考察を続けたい。