rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年7月8日 金正恩、錦繡山太陽宮殿を参拝(加筆版)

 

 本日の「労働新聞」は、金日成の逝去27周年に際し、金正恩が7月8日午前零時、党高位幹部らを帯同して、錦繡山太陽宮殿を参拝したことを報じた。

 おりしも、昨日には、韓国内で金正恩異常説を伝える文書が流布され、中には「クーデター」説を唱える「北朝鮮消息通」まで出て、これに対し、国情院がわざわざ「根拠なし」との見解を示す文書まで発表して火消しに走るという騒動があったそうで、同報道は、それがデマであったことを改めて確認させるものとなったようである。

 毎度のことながら、どうしてそういう情報が流布されるのか、理解しがたく呆れるばかりだが、一方、国情院がそれをわざわざ否定したことにも若干の違和感がある。そうした個別の情報(うわさ)について、いちいちコメントするのは、通例的な対応なのだろうか。そうではないとしたら、なぜ、今回はかなり公式的な形で否定したのか、何か北朝鮮のご機嫌をそこないたくないとの意向を感じるのは偏見であろうか。

 それはさておき、同報道で本来注目されるべきは、随行した幹部の顔ぶれである。まず、先の党政治局拡大会議において、厳しい批判を受け、常務委員を解任されたとみられていた李炳哲は、やはり金正恩と並ぶ最前列には姿を見せなかったが、その2列後方に他の政治局候補委員らと肩を並べていた。要するに格下げにはなったが、完全に粛清されたわけではなかったということである。一方、最前列は金正恩のほかは従前の常務委員3人(崔竜海、趙勇元、金徳訓)だけで「新人」の姿はなく、常務委員の補選はなかったことがうかがわれる。

 また、政治局委員から解任と見られていた朴正天軍総参謀長は、軍総政治局長、国防相、国家保衛相と並んで軍人の最前列の端(外側)に立っていた。この立ち位置から推測されるのは、序列は格下げされた(おそらく政治局候補委員)が、総参謀長の職は維持できたということである。ただし、同人の階級については、韓国の聯合通信が「次帥の階級章を維持」と報じているが、同人は、これまで元帥(昨年10月昇格)であり、「元帥」の階級章を維持なのか、次帥に降格なのか判然としない(報道写真家らは判別困難)。総政治局長ら前述3人が次帥であることからすると、次帥に降格された可能性が高いと考える(軍人の世界で階級と序列が逆転というのは考えにくいので)。

 なお、政治局会議の人事問題採決の際、席におらず解任と推測されていた崔相健(政治局委員、党秘書兼科学教育部長)については、随行者の中に姿があるのか否かについての報道がない。私が見た限りでは(写真が小さいので確実ではないが)、少なくとも金正恩の直後の政治局委員の列には見当たらないと思われる。ただ、その後ろのほうにいるのか否かはなんともいえない。

 いずれにせよ、先の政治局会議におけるこれら被解任幹部に対する批判は、組織秘書の「通報」に加えて、各部門幹部12人に「討論」までさせるという異例の厳しいものであったが、結果は、極めて温情的・微温的な対応であったことになる。「罪を憎んで人を憎まず」ということか、理由・背景はよく分からないが、率直に言って驚きである。

 同会議での一番の批判対象であった「責任幹部」の処分がこの程度であったとすると、そこで俎上にあげられたその他の一般幹部について「徹底して党的に、法的に検討調査し」て立てるとされた「該当の対策」や金正恩が全党的展開を呼びかけた幹部の「精幹化、精鋭化」の動きはどうなるのであろうか。あるいは、同会議は、幹部批判の「ショー」で終わってしまい、大山鳴動して鼠一匹といった結果になるのかもしれない。

 まあ、そうした緩急織り交ぜた、飴と鞭の使い分けこそが、本当の「クーデター」事態を招くようなことなく権力を安定的に維持していくための妙法なのかもしれない。

 ちなみに、本日の「労働新聞」は、金日成の逝去27周年に関連して、「偉大な首領金日成同志の崇高な以民為天の理念を輝かしく花咲かせていこう」と題する社説をはじめ回顧・称賛の記事を多数掲載している。ただし、党主催の記念集会等に関する記事はなく、各勤労団体がそれぞれ「徳性」を称える集会を開催したことが報じられている。

以下の部分加筆

 その後の聯合通信の同件に関する続報記事で、上記の記述で不確かであった次の2点が確認できたので、補足しておく。

 第1に、朴正天の階級章については、「降格されて次帥」に訂正されており、前述の推測が正しいことが確認できた。ちなみに、同じ列の金正官国防相は、これまで次帥であったところ、今回は大将の階級章をつけていたそうで、こちらも階級的には降格されたことが分かる。記事では国防相の地位は確認できないとしているが、軍人の最前列に立っていることから維持できているのではないかと思う 

 第2に、崔相健については、その姿が随行者の写真の中に確認できないとのことで、完全に失脚した可能性が高い。党秘書兼科学教育部長という職責から防疫活動における不備(「怠慢、無責任」)を問われたのであろうか。