rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月19日 論説「民族自尊は我々の生命である」

 

  本日掲載の標記論説は、「我々にあって民族自尊は、自らが持てるものをすべて売り払っても絶対に売ってはならず、飢え死にし凍え死んでも捨ててはならない命綱のようなものである」として、「民族自尊」の重要性を強調している。

 私見では、朝鮮半島の南北を問わず、「民族的自尊心」は人々にとって最重要な徳目であり、同時に心理的欲求でもあると思う。北朝鮮が韓国に対し経済的にはるかに劣後しているにもかかわらず、体制を維持できている一つの重要な背景として、北朝鮮体制が人民の「民族的自尊心」を一定程度(おそらくは韓国における以上に)満足させていることをあげることができるのではないだろうか。そして、それは、韓国内において、部分的にせよ北朝鮮にシンパシーを抱く勢力が根強く存在する背景でもあるのではないだろうか。

 同時に、北朝鮮体制にとって、「民族自尊」は、人民の公的部門への参加・動員を促す上での原動力としても重要な機能を果たしていると考えられる。

 そのような意味で、「民族自尊」は、北朝鮮体制にとってまさに「命綱」なのであろう。余談ながら、そのことは、北朝鮮との外交交渉などの場面において、「民族自尊」にかかわる事柄が無用な刺激を避けるべき留意点であると同時に、活用によっては意外な成果を収め得る梃として活用しうる可能性を示唆していると考えられる。

 ただし、この論説で説かれている「民族自尊」ないしその実現の基本方策とされる「自力更生」は、その言葉がもたらす精神主義一辺倒ないし内向き志向的な印象とは裏腹に、外向的ないし開明的な側面も併せ持つものであることにも注目する必要がある。

 すなわち、そこでは、「皆が自分の地に足を付け目は世界を見て、必ずや我々の力と技術、資源によって世界に先駆けるとの野心を抱き、世界に挑戦し、世界と競争し、力強い闘争を展開」することを訴えているのである。ここに青年時代を海外で送った金正恩の独自性の一つの発露があると考えるのは、過大評価であろうか。