rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

10月18日 金正恩が温室野菜農場建設現場を現地指導 

 本日付けで、金正恩委員長が咸鏡北道鏡城郡の温室野菜農場・養苗場を現地指導したことが報じられた(指導の日付は報道せず)。記事には同工場の全景写真が添えられており、非常に広大な地区に見渡す限りビニールハウスが立ち並ぶさまは壮観である。

 金正恩は、今後は、同農場を農村の模範とするよう指示するとともに、(かつて金正日の指導で建設された)協同農場の名前を上げて、一部では10年前に建設された同農場を今日に至っても模範にしていると批判し、(そのような姿勢は)革命をしないというのと同じであり、「過去の成果に満足して発展しようとしないのは、革命に対する態度と観点の問題であり・・・幹部の頭の中に残っているこのような古い思想からなくさなければならない」と述べたとされる。

 このよう金正恩の発言について、韓国の報道機関は、金正日時代の施策の変更を躊躇しない同人の姿勢を示したものと評価している。私は、結論として金正恩に対するそのような見方については賛成だが、上記発言がその表れと言えるかについては疑問を呈したい。10年前に模範的・先端的であったものが今日もそうであり続けることができないのは当然である。

 上記発言は、むしろ、旧套墨守をこととする幹部の漫然とした執務姿勢を批判したものとみるべきではないだろうか。あるいは、北朝鮮体制の一部には、金正日の「お言葉」を金科玉条のごとく尊重し、金正恩が新たに打ち出す政策によってそれが変更されることに消極的な、いわば「抵抗勢力」がいまだに存在するのだろうか。仮にそうであれば非常に興味深い現象であるが、金正恩の執権から間もなく8年を迎える現在、それほどの勇気のある幹部が残っているとは考え難いのではないだろうか。

 今次指導でもう一つ注目されるのは、同農場の建設が基本的に軍によって行われたということである。それは、「(同農場の建設について)人民軍軍人がまた一つの模範を創造したと、建設技能は少し不足していても愛国心で燃える人民軍軍人が流した汗で成し遂げた創造物である」云々との金正恩の言葉が紹介されていることからも明らかである。また、報道写真中で、金正恩の指導を受ける人々の中に軍人が多く含まれていることもそれを示している。なおその中には海軍の軍人らしき姿もみえる。鏡城は海軍基地の所在地とされており、同地の部隊も動員されたのであろう。

 ちなみに、去る10月9日、金正恩の現地指導が報じられた農場も軍の直営であった。同農場は、金正恩が近年毎年のように訪問し、先端的な農業科学・栽培方法などの研究開発を進めている施設である。

 そのような意味で、今回の現地指導報道は、今日、金正恩が国の各部門の模範ないし先端として建設している部署の多く(大半と言っても過言ではない)を軍が担っていることを改めて示したものと言えよう。

 そして、まさに軍をそのように用いる(「軍は社会主義建設の主力軍」)との考え方こそ、「先軍政治」の基本概念であり、金正恩は、近年「先軍政治」の言葉こそ用いていないが、その発想は引き続きしっかりと実践している。本稿前半で指摘したような個別的な変化の導入にかかわらず、彼は、やはり金正日の忠実な継承者であると言うことができよう。