rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

5月24日 党中央軍事委員会第7期第4回拡大会議開催

 

 金正恩が久々に登場、標記会議を「指導」したことが報じられた(会議開催日は言及無し。ただし、後述のとおり決定書の日付から5月23日と推定できる)。

 同会議の参加者は、報道によると、中央軍委委員に加えて、党朝鮮人民軍委員会執行委員会委員達、軍種・軍団級単位指揮官達と政治委員達、国家保衛省、人民保衛省、護衛司令部をはじめとした各級武力機関の指揮メンバー達、党中央委員会主要部署副部長達、である。報道写真によると、会議場は、横16人、7列の座席があり、合計で約110人程度とみられる。

 会議内容についての記述は、やや錯綜したものとなっており、大別すると、次の3つの部分からなっている。

 第一は、総論的な記述で、「国の政治的安全と自主権を鉄壁に保衛し、敵対勢力どもの持続的な大小の軍事的脅威を頼もしく牽制できるようにする」ことを狙いとして、「全般的共和国武装力を政治思想的に、軍事技術的により飛躍させるための重要な軍事的対策と組織政治的対策が研究討議され、組織問題が取り扱われた」とされる。

 第二は、やや各論的な記述で、「全般的共和国武力の軍事政治活動で表れている一連の偏向(問題点)について総括分析され、それを克服し決定的改善をもたらすための方途的問題」と「武力構成における不合理な機構、編成的欠陥を検討し正すための問題」「自衛的国防力を急速に発展させ、新たな部隊を組織編成し脅威となる外部勢力に対する軍事的抑制能力をより完備するための核心的問題」が討議されたという。

 第三は、個別の事項についての記述である。このうち、軍事的なものは次の3点である。①「党の革命的軍事路線と方針を徹底して貫徹するための部門別課題がもう一度強調された」、②「国家武力建設と発展の総的要求に伴って国の核戦争抑制力をより一層強化し、戦略武力を高度の撃動状態(即応状態の意)において運用するための新たな方針が提示された」、③「朝鮮人民軍砲兵の火力打撃能力を決定的に高める重大な措置が取られた」。一方、組織・人事関連の事項としては、④「中央軍事委員会副委員長を選挙し、一部委員を召喚(解任)、補選した」、⑤「李炳哲同志を党中央軍事委員会副委員長に選挙」、⑥「武力機関の主要職制指揮メンバー達」の解任・任命など、⑦「人民軍指揮メンバー達の献身と努力を高く評価、激励し、主要指揮メンバー達の軍事称号(階級)を昇格させることについて決定した」ことが報じられた。

 記事は、以上の内容を報じた上で、金正恩が同会議において、①「人民軍隊に対する党の唯一的領導を徹底して実現」することに関し、「共和国武力が軍事政治活動において恒久的に堅持していくべき重要問題と課題と方法について具体的に明らかにされた」こと、②「党中央軍事委員会で討議決定された新たな軍事的対策に関する命令書」「重要軍事教育機関の責任と役割を高めるための機構改編に関する命令書」「安全機関の使命と任務に合わせて軍事指揮体系を再編することについての命令書」「指揮メンバーの軍事称号を上げることについての命令書」など7件の命令書に署名した、ことを伝えている。このうち、「軍事称号」に関する命令書(5月23日付け)は、別途報道されており、朴正川総参謀長が次帥、鄭慶沢国家保衛相が大将に昇格したほか、上将に7人、中将に20人、少将に69人という大量昇格が明らかにされている。

 以上のような重層的な報道から、会議の正確な運営状況・決定事項を推測することは困難であるが、少なくとも、大きな柱としては、①軍内における党の指導力の強化、②戦略的抑止力ないし砲兵能力の強化(そのための組織改編・人事異動含む)、③国家保衛ないし人民保衛部門における機構改編、の3点をあげることができよう。

 人事面での動きも、李炳哲(党軍需工業部長)の副委員長昇格及び砲兵部門出身の朴正川の次帥昇格は②の文脈で理解できるし、鄭慶沢国家保衛相の大将昇格が③と関連する可能性もあろう。また、異例ともいえる軍人の大量昇格には、軍に対する配慮・慰撫の側面も指摘できよう。

 以上のような今次会議の決定から言えることは、北朝鮮指導部に軍の掌握・統制ないし国内安全部門などに関する内政的な配慮が少なからず存在していること、彼らが「抑止力」と考える(あるいは、そう表現する)戦力強化を加速する姿勢を示したことである。後者に対米刺激の思惑が込められていることは間違いないが、具体的にどこまで進めるつもりなのかは判然とせず、今後注目されるところである。金正恩が昨年末の中央委員会総会で予言した「新たな戦略兵器」の出現有無も気になる。確か「遠からず」と言ったような記憶があるのだが。

 なお、今次会議に関する報道のもう一つの注目点をあげると、恒例となっている軍の「社会主義建設への貢献」に関連する記述がほとんどみられないことである。それが直ちに軍本来の任務への専念、すなわち経済建設関連の任務軽減を意味するものと断言はできないが、継続的な注視が必要と考える。まったくの印象論だが、最近、軍の経済建設に関する報道が余り見られなくなっているような気もする。