rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

7月28日 第6回全国老兵大会開催、金正恩が演説

 

 標記大会が「祖国解放戦争戦勝記念日」である27日、予定どおり開催されたことが報じられた。大会には、金正恩ほか党・政府・軍幹部のほか、参戦経験のある引退幹部も姿を現した。大会では、金正恩の演説(詳細後述)に続いて、「祖国解放戦争勝利祈念館講師」を務める「共和国英雄・金勝運(音訳)同志が新世代に託す討論」を行い、「我が人民の尊厳と幸福のため昼夜を問わず心を砕かれている元帥様(金正恩)をよりしっかりと奉じ、1950年代の祖国守護精神、革命保衛精神を信念として堅持し、いかなる風波がこようと我が党だけを信じ、奉じ、従っていくこと」を求めた。そして、これを受ける形で、「青年達を代表」する金日成総合大学学生と人民軍軍官が「決意討論」を行い、「戦争老兵同志たちの切々とした願いは、新世代たちの心臓を強く轟かせているとしつつ、偉大な戦勝世代の精神と魂をそのまま受け継ぎ、党と革命、祖国のため一身を喜んで捧げる青年英雄になり、いかなる天地風波の中でも我が党だけを信じ従う心、一片丹心は変わらないと強調」した。

 同日には、内閣主宰による同大会出席老兵のための宴会が市内各所で開催され、それぞれ党・政府幹部らが出席したほか、夜間には盛大な「祝砲発射」(花火)も実施された。また、各地でも関連の行事や老兵の慰問などが実施されたことが種々報じられている。

 金正恩の演説は、戦争老兵たちに最大の敬意を表しつつ、戦時のみならずその後の社会主義建設における貢献を称えるとともに、「偉大な祖国守護者たちの精神で生き、闘争しよう!」とのスローガンを掲げて、その精神の継承を確認した上で、老兵たちの余生の幸福を祈念するというもので、老兵たちの感動を呼ぶものであったと思われる。

 昨日27日付け「労働新聞」も、「偉大な年代の勝利者たちが発揮した英雄的闘争精神は、主体朝鮮の高貴な思想精神的財富である」と題する社説を掲げており、「戦勝記念日」を契機に「戦争老兵」の精神の新世代への継承の重要性を強調するものとなっている。そのような趣旨は、そこに掲載された同日付け党中央委員会名義の「不屈の祖国守護精神の創造者であり、貴重な革命先輩である全国の戦争老兵たちへ」と題する「祝賀文」や本日同紙に掲載された「祖国解放戦争の歴史的勝利が刻んでくれる高貴な真理」と題する論説などでも繰り返し示されている。

 前述のような老兵大会の運営(戦争世代の「託す討論」→新世代の「決意討論))はじめこれら一連の動向・論調などは、「新世代」の革命精神希薄化を憂慮し、「戦争老兵」の精神の継承を期待する北朝鮮指導部の意向を如実に反映したものといえよう。

 余談ながら、老兵大会会場では、誰もマスクをせずに「万歳」を絶叫している写真が報じられている。「特級警報」発令中に、しかも高リスクの老兵たちを集めて、大丈夫なのかと心配になる。

 一方、金正恩の演説に関し、最近の外交課題に絡んで注目されているのは、「戦争それ自体を防止し、抑制することのできる絶対的力を持たなければならなかったために・・・核保有国へと自己発展の道を歩んできた」として「核保有」に久々に言及した上で、「信頼でき効果的な自衛的核抑制力によって、この地にこれ以上戦争という言葉はなくなるであろうし、我が国家の安全と未来は永遠に固く担保されるであろう」として、その保有の意思を示唆したことである。これを持って、直ちに「非核化」放棄の宣言とまでは決めつけられないものの、それに対して相当消極的な印象を与えるものであることは、否定できないであろう。

このほか、対中関係の文脈で、出席した老兵たちと並べて参戦した「中国人民志願軍烈士たちと老兵たちにも崇高な敬意」を表したことも注目されているが、これをもって中国との関係密接化の反映といえるかについては、過去(2015年の老兵大会での演説)との比較が必要であろう(すぐには確認できないのだが、同種の発言があったような記憶もあるような)。