rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年7月29日 閲兵式実施に先立ちロシア代表団を更に厚遇

 

 遅れてしまったが28日付けの「労働新聞」に掲載された「戦勝節」すなわち27日の主要行事についてコメントしたい。

 まず、祖国解放戦争勝利70周年慶祝閲兵式については、マスコミ等で論じられているので、そこで余り紹介されていない特徴点として、①娘が出てこなかったこと(同女の出現は何故か既に抑制気味になっていることに加え、対外デビューは過早と判断された、あるいはロシア、中国との連帯を目玉にしたかったので、関心がそちらに向かうことは避けたかったなどの思惑も考えられる)、②パレードの先頭に「祖国解放戦争時期指揮官象徴縦隊」、「親衛中隊長象徴縦隊」など多数の忠臣、烈士の肖像画を掲げた部隊を登場させたこと(こうした趣向は、2月の朝鮮人民軍創建75周年慶祝閲兵式にも見られたが、更に崔英林など存命中の「老兵」を登場させるなど、一層の演出がみられたなお、なお、そうした「英雄」の中には、崔竜海の父・崔賢も含まれていた)を指摘しておきたい。

 次に、金正恩も出席した祖国解放戦争勝利70周年記念報告大会については、李日換の演説のほか、「記念報告大会参加者に送ってきた・・プーチン同志の祝賀演説を・・・シェイグ同志が代読した」ことを指摘しておきたい。また、「すべての人民と人民軍将兵に送る朝鮮労働党中央委員会祝賀文」なるものが趙勇元組織秘書によって「代読」されたことも興味深い。人民に対し朝鮮戦争以来の献身に謝意を表したものと言える。当然、今後もそれを更に継続・倍加してくださいとの含意があるのだろうが。

 世間的には余り注目されていないが、上記の行事以上に注目されるのが、金正恩がシェイグ国防相を党本部庁舎に招請したことを報じる記事である。それによると、両人は、記念写真撮影後、「(金正恩の)執務室で同志的な雰囲気の中で談話」し、そこで金正恩が「急変する国際安保環境と朝鮮半島地域の軍事政治情勢に対する我が党と政府の評価と原則的立場を披歴」し、「国防安全分野において両国間の戦略戦術的協同と協調をより一層発展させる上で提起される一連の問題が真摯に討議された」という。その後、両人は、「午餐」も共にしたとのことである。金正恩は、26日にもシェイグ国防相ら代表団一行と公式に接見・会談しており、これに次ぐものである。しかも、わざわざ、「執務室」に招き入れたというところがミソであろう。

 更に、金正恩がロシア軍事代表団のための宴会を開催したことも報じられた。同宴会には、趙勇元秘書、李炳哲軍事委副委員長、強純男国防相、崔善姫外相に加え「国防省指揮官と朝鮮人民軍軍種司令官、大連合部隊、連合部隊長」らが参加したとされる。強国防相はそこでの演説で「朝ロ両国軍隊と人民は米国の強盗的な世界覇権戦略に思想によって武装によって立ち向かい国家の主権的権利と発展利益を固守し互いに協力に支持声援しつつ力を合わせて地域と世界の平和と安全、国際的正義を守護しつつある」と述べ、「戦うロシア軍隊と人民に共和国政府と武力、すべての人民の名前で最も熱い戦闘的敬意と支持声援を送った」。これに応えて、シェイグ国防相も演説で、「朝鮮人民軍は世界で最も威力ある軍隊になった」と賛辞を送り、「朝鮮民主主義人民共和国との多方面的な協調を終始一貫発展させていくとのロシア連邦の用意を披歴した」とされる。ロシア代表団の歓迎宴会は、26日に強国防相主催で行われており、これも、それに加えてのものとなる。

 こうした一連の動向からして、ロシア代表団に対する北朝鮮の接遇は、極めて破格のものであったといえる。そして、そこで交わされた一連の言動からは、ロシア(シェイグ国防相)側というよりも、むしろ北朝鮮側からのアプローチがより熱いものであった印象を受ける。このことからは、今回の朝ロ連帯の背景にあるものが、巷間広く取りざたされる北朝鮮からの対ロ支援(武器など)というよりも、むしろ、北朝鮮側がロシア側に対して何らかの要請(例えば、先端軍事技術の供与)を行った可能性が高いように思われる。そして、金正恩がシェイグ国防相と再会談の後、「午餐」を共にし、更に宴会まで開催したことは、そうした要請が受け入れられたことを示唆しているように思われる。あるいは、そうした取引は、北朝鮮からの武器提供とのバーターという形であるのかもしれないが、いずれにせよ、北朝鮮金正恩)側に有利な内容のものであったのではないだろうか。

  なお、金正恩は、28日になって、中国代表団と接見したほか宴会も開催し、前述のようなロシア代表団への接遇とのバランスをとった形となったようであるが、それについては、別項にて論じたい。