rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

8月26日 「先軍節」をめぐる動向についての評価

 

 昨日の本ブログで、25日付けで掲載された「先軍節」記念社説を紹介した上で、関連動向の全般的評価は、今日の報道を見た上でと予告したが、今日の「労働新聞」紙面を見る限りでは、金日成金正日銅像への献花などが行われたことを除き、記念集会など特段の行事は実施されなかった模様である。

 「先軍節」に際しては、2015年(55周年)には、金正恩は出席しなかったものの記念集会が開催され、更に遡ると、2012年には金正恩出席の下、祈念祝宴が開催され同人が演説を行い、2013年には、金正恩が談話「金正日同志の偉大な先軍革命思想と業績を末永く輝かせよう」を発表(「労働新聞」「朝鮮人民軍」紙上に掲載)したことなどと比較すると、「先軍節」の位置づけは、確実に低下しているといえよう。

 更に重要なことは、それら記念行事の規模・態様の変化だけでなく、そこで主張されていることの変化である。すなわち、かつては、言うまでもないが、「先軍」という概念、すなわち、国事において軍事を最重要のものとみなす、との考え方が強調されていたところ、今年の社説においては、そのような点への言及がほとんどなく、ひたすら軍の首領・党に対する忠誠・服従を確実なものにしたとの意義だけが強調されていることである。これは主客転倒といえるほどの変化と言っても過言ではないであろう。今日、「先軍節」という祝日は残っているが、「先軍」の概念は、事実上捨て去られたと言ってもいいのではないだろうか。(ただし、私は、そもそも「先軍」という概念は、言われだした当初から、軍の党に対する優越を意味するものではなかった、と考えている。ただ、それにせよ、軍事重視という側面があったことは否定できない)。

 いずれにせよ、今日、「先軍節」記念社説で、軍に対する指導権の確立が金正日の業績として特筆大書されているということは、それが今日の北朝鮮指導部が軍事面で最も重要と考えている課題であるということを意味していると考えることができよう。

 それは、おそらく、最近、韓国で報じられている党中央委員会「軍政指導部」なる部署の設置とも軌を一にするものであろう。ちなみに、韓国報道によると、同部の設置は、昨年12月の中央委員会第5回全員会議での決定とされているようだが、それに先立ち開催された中央軍事委員会第7期第3回会議(12月22日報道)において「国の全般的武装力に対する党の領導を徹底して実現し担保するための組織機構的な対策」が討議決定されたとされていることから、事実上、ここで決められたと考えられる(それを全員会議で正式に追認した可能性は否定できないが)。

 なお、同部の機能・役割については、従前の組織指導部の軍に対する指導権限を移管したとの見方もあるようだが、それで「党の領導を徹底して実現」することになるのか、いささか疑問である。軍人出身者(崔富日)を部長とする同部にそれを任せてしまえば、党の軍に対する統制力がむしろ形骸化するおそれもあるのではないだろうか。それよりは、組織指導部の軍内党組織に対する(あるいはそれを通じた)指導権限は、そのまま維持しつつ、軍事的な活動に対する指導・統制を行う部署を設置したほうがより強力な統制が担保されるのではないかとも思われる。とりわけ崔富日が軍政指導部の部長になったとすれば、そのような機能を与えることがより「適材適所」といえよう。具体的な根拠を持た上での推論ではないが、例えば、経済部門に関して、党中央委の関連部署が内閣の活動を監督していることを勘案すれば、十分にありうる選択と考える。