rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

8月28日 金正恩黄海南道の台風被害地を視察

 

 「台風一過」したかしないかという時期に、はや金正恩の被災地視察動向が報じられた。そこで、金正恩は、党中央委各部署を被害復旧作業に「すべて動員」するよう指示したという。黄海北道銀波郡の洪水被災地視察の時と同様、同人の「人民に対する深い恩情」アピールが繰り返されるのであろう。

 なお、今次台風の被害状況については、金正恩が上掲視察時に「予想より少なくて幸い」である旨述べたとされ、これを反映してか定かでないが、同日に掲載の「台風被害復旧に一体となって奮い立とう」と題する社説においても、「大きな災難を招来しうる台風危機を克服し、各部門別被害規模を最小化することができた」としている。この社説執筆時点において、本当に全国の被害状況が正確に集約できていたのかは疑問の余地もあるが、金正恩があのように発言してしまった以上、それは当該地域に限ってのことで他の地域は別とは言えないのかもしれない。

 ちなみに、同日に「すべての部門、すべての単位で台風と暴雨による被害復旧に総力を集中しよう」との共通題目下で掲載された関連記事のうち、「農作物被害を最小化するため 黄海南道において」と題する記事では、「台風8号の影響で黄海南道の農村(複数)が少なくない被害を蒙った」と報じている。

 いずれにせよ、北朝鮮指導部にとって重要なことは、それとは別にあるとも考えられる。実は、前掲社説の引用部分は、そこで終わらず、「(・・できたのは)、我が党の賢明な領導と党と危機意識を共にし党中央の指示と布置(註)を正確に執行したすべての人民の無限の忠実性と責任性、献身性がもたらした結実である」と続いている。

 註:布置とは、「ある事業(活動の意味)に先立ち、一定の人や集団、又は単位に任務分担を与え、事業の目的と意義、行うべき仕事の内容、その遂行方途などを知らしめ、今後、事業が成し遂げられるように整えること」を意味する(「我が民族同士」の「ウリマル大辞典」による)

 ここで述べられている「党中央の指示と布置」とそれを「正確に執行する無限の忠実性、責任性、献身性」という表現は、コロナ防疫活動において、繰り返して用いられてきたものである。こういった「中央の統一的指揮に従って、全国で一糸乱れず行動する人民」という構図が北朝鮮指導部の最近とみに追求する理想のモデルであることは、本ブログで既に指摘したところである。北朝鮮指導部は、コロナ防疫に加えて洪水・台風対応を二本目の柱として、そういった理想モデルの実現に努めていると言えるのではないだろうか。

 更に言うと、ここでの「党中央」の用法は、「党」とは別の存在と考え得る余地がある。極めて大胆な仮説であるが、ここでいう「党中央」が金与正を指す可能性は検討の余地があろう。そうであれば、最近における彼女の各種会議への欠席も、「コロナ防疫及び洪水・台風などの非常災害に対する統一的指揮を休むことなく続けているため」として、説明が可能であろう。ただ、正直に言って、これは余り自信がない。逆に彼女が何らかの抑制を受けて、いわば謹慎中である可能性も捨てきれないと考えられるからである。あるいは、健康問題(「ご懐妊」なども含めて)の可能性もないとはいえない。この問題については「決め打ち」は避け、注視を続けたい。