rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

9月27日 朝鮮中央通信が漂流韓国人射殺事件に関し報道

 

 標記事件に関し、朝鮮中央通信が9月27日付けで「南朝鮮当局に警告する」と題する報道文を発表した。

 これまでは、韓国では「金正恩が公開謝罪」などと報じていたが、実際は、北朝鮮の統一戦線部から送られてきたとする「通知文」の内容を韓国政府が発表しただけであり、北朝鮮としては、何らの公式的立場も公表していなかった。

 標記報道文は、そのような意味で、北朝鮮による初めての公式的立場表明である。また、その内容においても、事件の事実関係について「あってはならない芳しからぬ事件が発生したこと」を認めた上で、北朝鮮側が「(そのようなことが)追加発生しないよう必要な安全対策を補強した」ことを記して、事件の責任が北朝鮮側にあることを示唆していることはそれなりに意味のあることと言えよう。

 なぜかといえば、北朝鮮は、前記の「通知文」発送をもって同事件を解決済みのものとし、以後、一切口をつぐむこともできたはずである(そうすれば、北朝鮮の歴史においては、同事件はなかったことになる)。今回の報道文発表は、そうした「逃げ」の方法ではなく、題名を「警告」という形にして格好をつけつつも、自らの公式記録に前述のような事実関係を残すということにより、北朝鮮なりの形で「反省」を示したものとも考えられるからである。

 一方、同報道文に関し、逆の意味で注目されるのは、韓国側が当該海域で行っている被害者遺体捜索活動に関連し、「我々側領海侵犯は絶対に看過できない」としつつ、「西海海上軍事分界線(の)無断侵犯行為を即時中断」するよう求めていることである。周知のとおり当該水域の管轄については、南北で主張が異なりかねて紛争中であり、かねて米韓側が北朝鮮領土に近いいわゆるNLL(北方限界線)を主張してきたのに対し、北朝鮮は1999年、それよりもはるかに南側に当たる「西海海上軍事分界線」(通称「海上警戒線」)を一方的に設定・主張してきたが、近年はやや妥協的な立場も示唆していたとされる。今次報道文中の「西海海上軍事分界線」がそれを意味するのであれば、「転んでもただでは起きない」式に、この際、改めて従前の主張を繰り返したことになる。

 ただし、今後の実際の対応については、その線を超えたら実力で排除するというまでの意向はなく言うだけは言っておくということかもしれないし、「無断侵犯」ではなく、「事前連絡」してくれば対応可能という含意も読み取れないこともない。どのような対応をとるのかは未知数といわざるをえないであろう。