rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2021年8月19日 米韓合同軍事演習に振り上げた拳の下しどころ

 

 北朝鮮が標記演習の開始に反発し金予正、金英哲名義のかなり強硬な談話を相次いで発表してから1週間、演習が本格段階に入った16日から3日経つが、これまでのところ、特段の後続措置は認められない。

 今後、北朝鮮が対韓ないし対米関係をどのような形で展開するのか、現時点までの国内報道などを主な根拠として検討してみたい。

 まず、これを契機として、米朝首脳会談開始来自制してきた長距離ミサイルの発射実験を行うなどして、いわゆる「瀬戸際」戦略を展開する可能性はどうだろうか。結論を先に述べると、その可能性は低いと考える。その根拠は、国内に向けては、前述の2談話を報道した後、演習に関する報道や非難の論説などが発表されることもなく、それに抗議する各種団体の声明発表であるとか大衆集会開催といった、かつて「瀬戸際」戦略展開時に見られた人民に対する宣伝活動もまったく行われていないことである。これは、北朝鮮が当面、国を挙げた形での緊張状況を作り出すことまでは想定していないことをうかがわせるものと言えると考えられる。

 逆に、演習終了後に、折を見て通信線を復旧させるなどして、再び南北関係の改善の道に進む可能性はどうであろうか。前述のような国内の報道ぶりを見ていると、その可能性をまったく否定することはできないようにも思えるが、だからと言って、いったん前述のような強硬な談話を発表し、国内にも周知させた以上、演習が終了したからと言って、それだけでなにごともなかったかのように元の姿勢に戻るというのは、内外に対する手前から言っても、なかなか難しいのではないだろうか。それには、それなりの「名目」が必要であろう。それが何かは簡単に予測しがたいが、現状の「制裁」枠組みでも許容される程度の韓国からの「人道支援」供与などをもってしては、不十分と考える。そのためには、米韓の対北朝「鮮敵視姿勢」を実質的に転換させたことを示すに足りる措置が必要なのではないだろうか。残り任期短い文政権(少なくともその中の一部勢力)は、任期内の南北関係改善に向け必死になっているから相当のことをやるつもりかもしれないが、米国がそれを許容するかは別問題である。そういったことが実現できるのであれば、今次米韓合同軍事演習も中止されていたのではないかとも考えられる。したがって、この再逆転シナリオは、韓米両政権内の対北朝鮮姿勢を軸とした政治バランスが大きく変わらない限り、潜在的可能性にとどまるのではないかと思われる。

 結局、現実的可能性が最も高いのは、前述二つのシナリオの中間ということであろう。具体的には、経済建設に力量を集中しつつ軍事力整備を着々と進めるという従前の基本路線を維持しながら、今後は、バイデン政権発足後やや手控えていたミサイル実験等を必要に応じて躊躇なく実施することとし、あわせて、機会を見てそういった軍事力整備の進展ぶりを誇示していくとのシナリオである。米韓への非難は、中国、ロシアなどとの連携を基軸とした外交的な宣伝の次元を中心に展開していくのではないだろうか。

 結論的に言って、今の北朝鮮(特にその経済状態)は、米国との「火遊び」をしているほどの余裕はないが、だからと言って、韓国に膝を屈してすり寄るほど切迫した困窮状態にあるわけでもないと考える。