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主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2022年8月11日 全国非常防疫総括会議を開催、金正恩が演説

 

 本日の「労働新聞」は、「内閣が招集」した標記会議が8月10日、金正恩の「指導」の下、開催されたことを伝える記事及び同会議における金正恩の「演説」と金徳訓総理の「報告」及び5人の討論者(金予正含む)による「討論」の全文を掲載した。その骨子は、次のとおりである。

ア 主な出席者:金正恩、金徳訓、朴正天(党秘書)、李日換(同)、朴泰城(同)、金予正(党副部長)、李創大(国家保衛相)、朴守吉(社会安全相)、金永換(平壌市責任秘書)をはじめとした「党と政府の責任幹部、防疫・保健部門の幹部、国境地帯に派遣された党代表と党指導組メンバー、封鎖任務を遂行している軍部隊指揮メンバー、各級非常防疫指揮部メンバー、非常防疫事業に寄与した支援者、党中央委該当部署幹部」。李永吉(国防相)を「はじめとした国防相非常防疫部門幹部」

イ 金正恩の演説骨子(標題:「防疫戦争における勝利を確実にし、国家と人民の安全をより頼もしく担保しよう」)

  • 新型コロナ国内蔓延の完全収束を宣言:最大非常防疫体系に移行した時から91日を経て、「醸成された悪性伝染病危機が完全に解消されたとの結論に達した」、「5月12日から稼働させてきた最大非常防疫体系を今日から緊張強化された正常防疫体系へと防疫等級を低める」
  • 防疫成功は体制の優越性を反映と主張:コロナの国内蔓延に対する対応は、「我が党の領導力をもう一度冷酷に検証する試金石」であったが、「我が党は、・・特有の決断性があり強力な政治的指導力を正確に発揮し・・ウイルス撲滅闘争を勝利へと組織領導」した。これは「我が人民特有の強靭性と一心団結の勝利であり、我々式社会主義の制度的優越性がもたらした偉大な勝利」である。
  • 人民の協力、関係者の献身を賞賛:「(防疫対策のため)公民の生活において以前よりも難関とあい路が何倍にも加重された」が、「(防疫対策を)自覚的に、良心的に順守し、無条件に実行する立派な気風」を示してくれた。「全国の防疫部門と保健部門活動家を高く評価し、防疫障壁を守り苦労したすべての軍人と幹部、勤労者、防疫事業を物心両面で声援した支援者に熱い感謝」を捧げる。
  • コロナ蔓延による経済建設等の遅延防止を評価:「(コロナ蔓延による悪影響を)頑強に克服し、(経済建設、国家事業全般において)正常事業を維持しつつ、予見されていた発展速度をたがえることなく保障した」。特に「(労力動員が困難になったにもかかわらず)農業生産において最も重要な営農工程(田植えなど)が所定の期日内に円満に遂行」された。
  • 防疫活動の教訓2点を提示:①防疫事業長期化に伴う緊張維持の重要性:「防疫規定と指針に従っていれば、このたびの防疫危機の始発点となった金剛郡前線地帯での有熱者発生も、その地域内でいくらでも封じ込め抑制できた(はずであった)」「自慢放心、自体慰安しつつ、緊張を緩めていること自体が今回のような深刻な挑戦と危機をもたらした張本人」。②防疫能力の更なる向上の必要性:「(今後の課題として)第一に問題になるのは、世界的な保健危機に対処するための防疫能力建設」「勝利を宣布したからといって、伝染病伝播の危険性が完全になくなったとか、国家非常防疫事業がすべて終わったととらえてはならない」「(国際的な保健危機状況からするに)安心して防疫措置を緩和するのは余りに時期尚早」であり、引く続き「全人民的な防疫意識と覚醒を堅持」し、「防疫指針と秩序に違反する現象との組織的、行政的、法的闘争」が必要。あわせて「国境と前線、海岸と海上、空中に対する多重的な封鎖障壁を全般的に再点検し、・・封鎖の完璧性を期することが重要」
  • コロナ危機で示された力量の社会主義建設での発揮を訴え:「我々は、このたびはっきりと誇示された我々の無限大の潜在力を最大に噴出させて、非常防疫戦線においてだけでなく、社会主義建設のすべての分野においてより大きな成果をもたらすため力強く戦っていかなければなりません」「(この)不屈の精神力をより発動し昇華させるなら、今年我々が建てた闘争目標はもちろんのこと、党第8回大会が明らかにした5か年計画の目標も成果的に占領されるでしょう」

ウ 金予正の「討論」骨子(標題:防疫大戦での高貴な成果に基づき我が革命の政治思想陣地を固く固めるための宣伝扇動攻勢をより進攻的に展開していく))

  • コロナ国内蔓延に対する金正恩の労苦と献身ぶりを紹介・賞賛:「(91日間での)防疫事業を指導して下さった領導文献(決裁書類の意)だけでも1,772件、2万2,956ページになる」「このような領導者がこの国を守って下さるが故に我々は防疫戦争においても奇跡を創造することができました」「この防疫戦争の日々、高熱に甚だしく苦しまれながらも、自らが最後まで責任を負うべき人民を考えて一瞬も横にならなかった元帥様」
  • コロナ感染をもたらした韓国を非難、対抗措置を予告:「この度の防疫闘争は・・敵との実際的な戦争でした」「我々がこのたび経た国難は・・敵の反共和国対決狂病がもたらしたものでした」「南朝鮮地域から汚物が引き続き入り込んできている現実は、いつまでも拱手傍観していられないとの結論に到達します」「既に色々対応案が検討されているが、対応も非常に強力な報復性対応を加えなければなりません」「万一、敵が共和国にウイルスが流入しうる危険な所業を引き続き行う場合、我々は、ウイルスはもちろん、南朝鮮当局も撲滅することで応えるでしょう」
  • 思想教育強化に尽力を宣誓:「南朝鮮傀儡こそが我々の不変の主敵であり、革命闘争の勝敗を左右する根本要因は階級意識です」「人民を透徹した主敵観と階級的仇敵に対する非妥協的な闘争精神を帯びた階級の前衛闘士として、無慈悲な復讐者として準備させ、フル充填された復讐と懲罰の意志がそのまま職場と哨所ごとに党決定貫徹のための赫赫たる成果となるように思想事業の火力を一層強めていきます」

 なお、金予正以外で「討論」を行ったのは、①国家非常防疫司令官である党中央委部長・李忠吉、②平壌市非常防疫師団長である党平壌市委員会責任秘書・金永換、③国防省非常防疫師団副師団長である国防相・李永吉、④内閣副総理・李上学であった。

 以上のような演説、討論における主張は、概ね想定されたものであるが、驚いたのは、金予正が当該期間中に金正恩が「高熱」を患ったことを明らかにしたこと。

 また、参加者を報じる中で、同人の名前が政治局委員である朴泰城の後ろ、同候補委員である李創大、朴守吉、金永換の3人の前にあげられていることも注目される。副部長のまま政治局入りしたとは考えにくいが、異例の配列といえよう。

 このほか、国境地帯などに党代表ないし党指導組が派遣されていたというのも興味深い。それだけ国境封鎖を重視した(地元まかせでは完璧を期しがたい)ということの反映であろう。また、国家非常防疫体系が中央司令部に「司令官」を、その下の道・直轄市、主要機関に「師団」を置くという形で編成されていたことも注目される。そうした名称を用いることによって、軍隊同様の上意下達の徹底を期したのであろう。余談ながら、国防相国防省師団の副師団長というのも気になる。師団長は誰がなったのであろうか。「国防省党委員会責任書記」といった役職の人が別にいるのであろうか。

 なお、金予正の対韓強硬発言は、あくまでも宣伝部門としての意見であり、今後の対韓方針闡明というよりは、むしろ、「階級意識」高揚のため国内向けの狙いが中心と考えられる。そのことは、金正恩の演説にその種の警告的な表現が含まれていないことからもうかがえる。