rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年4月17日 李炳哲の「立場発表文」を通じて、米国に警告

 

 朝鮮中央通信は、本日、「(党中央委政治局常務委員・党秘書・党中央軍事委副委員長である)李炳哲元帥が米国とその追随勢力どもが我々の自衛的国防力強化措置を問題視する国連安全保障理事会公開会議を又も強圧招集しようとしていることに対し、4月17日、朝鮮中央通信社を通じて強硬な警告立場を発表した」と前書きした上で、同人の「立場発表文」を報じた。その骨子は、次のとおりである。

  • われわれの新型戦略兵器の開発は徹頭徹尾、米国の増大する軍事的脅威と展望的な地域の安全上の懸念から朝鮮民主主義人民共和国を守り、戦争を抑止し、平和的人民の生と未来を防衛するための合法的な自衛力強化措置である。
  • 国連安保理朝鮮半島の情勢悪化の主犯である米国に対しては憂慮さえ示さず、われわれの合法的な自衛権行使だけをまた問題視しようとするのは、明白な二重基準であり、わが主権に対する重大な冒瀆(ぼうとく)である。
  • もし、米国がわれわれの重なる警告を無視して、朝鮮半島の安全環境を引き続き危うくする行為を続けるなら、より明白な安保危機と克服不能の脅威を感じられるように、われわれは必要な行動的措置を取っていくであろう。

 同「立場発表文」は、記事が冒頭で指摘しているように国連安保理において先の北朝鮮大陸間弾道ミサイル発射に関する協議が現地時間で17日に予定されていることにあわせて出されたものであるが、その趣旨は、これまでの北朝鮮の主張の繰り返しであり、特段の新味はみられない。最後の「より明白な安保危機と克服不能の脅威」を感じさせるための「必要な行動的措置」の予告も、大陸間弾道ミサイル発射時の金正恩発言の枠内から出るものではないといえる。

 ただ、注目されるのは、それが李炳哲名義による「立場発表文」という形式で示されたことである。まず、李炳哲については、先般来の本ブログで指摘しているように、「健在」であるにもかかわらず、このところの一連の軍事活動に際しては、ほとんど姿を現さなかった人物である。その彼が、なぜ、突然こうした「警告」の主体として登場することになったのか、検討の余地があろう。普通の視点からすると、金正恩を除く軍の第一人者の名義を用いることにより、対外的に「警告」に重みをもたせるためと考えられる。一方、国内政治的側面からややうがって考えると、李炳哲がこのところやや薄れがちであった自己の存在感をアピールする狙いがあったと見ることも可能かもしれない。

 次に、こうした主張は、通例、「声明」とか「談話」という形式で出されるところ、「立場発表文」と銘打った理由は何か。単に奇をてらっただけなのか、あるいは、前例のあることなのか、皆目見当がつかない。

 いずれにせよ、国連安保理の協議では、中国等の弁護により、北朝鮮への非難を理事会としての一致した意見としてまとめることできないであろうし、換言すると、その結果、北朝鮮が特段反発するような事態にも至らないのであろう。こうした「発表文」も、そうした結末を見越した上で、あるいは、そうした中国の立場を支えるために出されているとも言えよう。