rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年9月22日 党中央委第8期第16回政治局会議の開催を報道

 

 本日の「労働新聞」は、標記会議が9月20日開催され、金正恩の訪ロを総括したことを報じる記事を掲載した。同記事の骨子は、次のとおりである。

  • 金成男党国際部長「総秘書同志のロシア連邦訪問に関する帰還報告」実施:「9月12日から17日までロシア連邦の諸地域を訪問されたことについて詳細な状況が通報され、今次訪問を契機に朝ロ関係が新時代の要求に呼応して新たな戦略的高みに登り立ち、世界政治地形において根本的な変化が起きたことについて言及」、「ロシア連邦訪問が持つ意義について分析し、展望的な朝ロ関係発展計画が紹介」
  • 政治局の評価:「金正恩同志のロシア連邦訪問が所期の目的を達成したことについて高く評価し、海外訪問成果を熱烈に祝賀」
  • 金正恩発言:「訪問成果を強固に固めるための実践段階において、伝統的な朝ロ善隣協調の紐帯をよりしっかりとし、すべての分野において双務関係をより活性化し、新たな高い段階へと発展させるための建設的な措置(複数)を積極的に実行していくことについて段取り」、「各分野の協調を多方面的に拡大発展させるための朝ロ該当部門間の緊密な接触と協働を強化・・(すべき)と強調」
  • 討議内容:「(訪問による)対外活動成果を実践的に、全面的に具現していくための一連の方途的問題を討議」

 なお、本日の「労働新聞」は、同記事と同時に、政治局が「金正恩同志のロシア連邦訪問成果を祝賀して・・9月20日夕、宴会を準備した」こと、金正恩が同日、「ロシア連邦訪問に随行した代表団メンバーと記念写真を撮影した」ことをそれぞれ報じる記事も掲載した。

 このうち、前者の宴会では、李日換党秘書が祝賀演説を行い、「ロシア訪問成果を改めて高く評価し祝賀」するとともに、「朝鮮労働党朝鮮民主主義人民共和国偉大な尊厳の代表者であられ、すべての勝利と栄光の象徴であられる金正恩同志の安寧を祝願」するなどしたという。また、後者の記念写真には、金正恩を中心に百数十人が写っており、今次訪ロ代表団が大規模なものであったことが示された。

 金正恩の外国訪問を契機として、こうした形で政治局会議(更には宴会まで)が開催されるのは、非常に異例なことではないだろうか(記憶が定かでないので確言はできないが)。ただし、政治局会議の報道内容は、朝ロ関係の全面的緊密化を印象付ける修飾語がくどいほどに繰り返されているが、実質的、具体的な事柄は一つとして示されてない。

 こうした動向を見ても、今次訪ロは、それを通じてロシアから具体的に何かを獲得するとかということよりも(少なくとも、それに劣らず)、ロシアとの関係緊密化というイメージを内外に誇示すること自体を目指したものであったという見方に傾かざるを得ない。

 では、そうした見方が正しいとして、北朝鮮(あるいは金正恩)がそうしたイメージを「内外に誇示」することの狙いは何か。「外」の方は、9月20日付けの本ブログで論じたとおり、米韓におのれのなした「拡大抑止強化」策の反作用をつきつけ、「安全保障のジレンマ」を実感させることと考えられる。

 一方、「内」に対しては、金正恩が「大国」であるロシアを相手に堂々の外交を展開したこと、ロシア国内においても高い権威を付与されていること、そうした外交活動が世界中を震撼せしめ、国際政治に多大な影響を与えていること、などを強調することにより、金正恩の偉大性を改めて実感させることにあると考えられる。金正恩が訪問先各地での到着・出発に際し頻繁にロシア軍儀仗隊の栄誉礼を繰り返し受けていたこと(朝鮮中央放送が放映した同訪問状況をまとめた記録番組では、その場面を余さず紹介)は、そうした金正恩が受けた「敬意」の高さを象徴するものといえよう。そして、北朝鮮にとっては、大国ロシアにおいて、金正恩がそうした「敬意」を受けることが、まさに、国家の「尊厳」を発揮することにほかならないのであろう。李日換党秘書演説の下線部分は、そういうことを示していると考えられる。

 余談だが、韓国では、野党勢力が時の大統領を批判するために外国訪問時にしかるべき礼遇を受けられなかったことを殊更に批判する傾向があるようである。日本では、そうした形で総理の外国訪問が批判されたことは記憶になく、これは、韓国の政治文化の一つの特徴といえよう。そして、そうした「尊厳」に対する感受性の高さ(端的にいえばこだわり)は、おそらく南北朝鮮に共通するものであり、北朝鮮の人々は、金正恩がそうした礼遇をしっかり受けるのを見て、自らも「強国公民」としての「尊厳」を感じるのであろう。