rodongshinmunwatchingのブログ

主に朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を通じて北朝鮮の現状分析を試みています

2023年9月20日 金正恩平壌到着を報道。朝ロ関係の性格についての考察

 

 本日の「労働新聞」は、金正恩が「9月19日夕方(저녁)、専用列車で平壌に到着された」ことを報じる記事を掲載した。

 同記事によると、金徳訓、趙勇元、崔竜海の3人の常務委員を「はじめとする党と政府、軍部の幹部」らがこれを出迎え、「朝ロ親善の強化発展史に長く輝く不滅の対外革命活動を展開して無事に帰国された金正恩同志」に「熱烈な祝賀の挨拶を捧げた」としている。

 これで、9月10日の平壌出発以来、10日間に及び金正恩の訪ロが終了したことになる。以下、今後の朝ロ関係の性格について、とりあえずの見方を示しておきたい。

 金正恩の今次訪朝を踏まえて、巷間では朝ロ関係の緊密化を指摘する見方があふれている。現象面だけを見れば、今後、朝ロ間の交流が様々な分野で拡大・活発化していくことは間違いないであろう。しかし、そうした両国関係の性格について、単純に冷戦時代における北朝鮮ソ連の間の同盟関係が復元されるとみなすのは、早計と言わざるを得ないと考える。

 その最大の理由は、両国が冷戦時代においては、曲がりなりにも「社会主義」という価値観を共有していたが、現在、両者を結び付けているのは、米国と敵対しているという事実だけであり、何らかの価値観・理念を共有しているわけではないからである。換言すると、現在の朝ロ関係は、「敵の敵は味方」の論理に基づく、すぐれて便宜的な「親善協調」関係に過ぎないとみるべきではないだろうか。

 とりわけ、ロシアの「反米」は、格別の「反帝国主義」あるいは「反資本主義」といった理念が背景にあってのことではなく、ロシアのウクライナ侵攻に米国が強く反発して、ウクライナへの軍事支援などを続けていることの結果に過ぎない。仮に、米国がウクライナ侵攻を事実上黙過していたとするなら、ウクライナでの戦争状態は既に終了しており、今日のロシアの「反米」姿勢は、それほど鮮明なものとはならず、結果、今日のような北朝鮮との関係強化を進める必要性も存在しなかったであろう。また、仮に将来(例えば、トランプ再選などの結果)、米国がウクライナ支援を弱め、ウクライナでの戦争状態が休止することになれば、ロシアの反米姿勢も軟化する公算が大であろう。

 北朝鮮の対米関係についても、蓋然性の差はあれ、同様のことがいえる。仮に、2019年のハノイの首脳会談でトランプが金正恩の提案を受け入れ、寧辺施設の廃棄だけという名目的な「非核化」プロセスが進んでいたとするなら、おそらく、北朝鮮は、ここまでロシアに接近することはなかっただろうし、将来の「トランプ再選」シナリオにおいても、同様のことが言えよう。

 要するに、現在、朝ロを結び付けている「反米」という現象は、実は、朝ロそれぞれに対する米国の対応によっては、いつでも霧散しかねないものであり、朝ロどちらの国にとっても、両国関係の確固たる基盤とみなすには、余りに脆弱なものと言わざるを得ないのではないだろうか。

 もう一つ留意すべき重要な要素は、北朝鮮の「自主」「自衛」志向の強さである。冷戦時代の同盟関係下にあっても、北朝鮮ソ連との関係が東欧諸国のそれとはまったく異なるものであったことを想起すべきである。前述のような便宜的「親善協調」関係下における両国関係、とりわけ軍事面の交流・協力が、冷戦当時のそれを超えることはないとの前提に立つなら(それは、相当蓋然性の高い前提といえよう)、今後の朝ロ間の「軍事協力」には、自ずと制約が存在するといえよう。

 巷間では、朝ロ関係について「懸念」の声が強いが、そうした主張は、結果的に、先般来の米韓(あるいは米韓日)による「拡大抑止」強化の動きが、むしろ地域情勢の不安定化を招いた、つまり「安全保障のジレンマを引き起こした」との意見(こうした見方は特に韓国内で広範に存在)を後押しする(そして、米韓のそうした動きを掣肘する)ことにもつながりかねないことに留意すべきであろう。

 実際、金正恩の今次訪ロは、ロシアとの交流強化による具体的な実利(例えば軍事技術)の獲得と同時に、韓国等を対象にした、そうした世論作り(「認識戦」)を視野に入れたものであったのではないだろうか。そうであるとすれば、朝ロ関係の本質を的確に把握することなく、むやみに「懸念」ばかりを騒ぎ立てるのは、主観的には救国の至情に基づくものかもしれないが、結果的には、そうした金正恩の策に乗せられることになると言わざるを得ないのである。